第4話 怖がられたらどうしよう
「来週はオープンスクールがある」
朝のホームルームにて、ノイズ先生から連絡事項が。そんなのあったっけ……私も行ったことあったな。
「主に受験生が学校見学に来るが、くれぐれも優しくするように!
暴言、暴力、煽り、異常行動、犯罪予告、凶器の持ち込みは絶対禁止だ」
先生は私をチラリと見て注意事項を。生徒たちはざわめいている。
「そんなヤツいねえよな」「異能犯罪者だろそれ」「やった人いるのかな」
「そして異能バトル科の見学者にはラバーバンドが配られる。これをつけると……」
先生の実演により、白いラババンが黄緑に。
「属性がわかるから、同じ属性の子がいたら声をかけてあげてくれ」
虫属性の子来るかな。ジャージにアイロンかけておこう。
「そしてその予行演習も兼ねて、普通科を見学者として呼ぶことになった。龍組に来るのは1組から4組。
仲良くするんだぞ。絶対に殴り合いはするなよ?」
*******
私たち4人は、授業開始10分前に異能訓練場に到着。でもすでに騒がしい。
先生の予告通り、異能訓練場には普通科の生徒がワラワラ。普通科は白いネクタイが特徴。
そして男子は全員鈴音に釘付けだ。異能バトル科で……いや学年1で可愛いと評判の鈴音だもんね。
女子たちは加賀と穂村に注目。私? はっはっは、鈴音の横にいたら誰も見ませんわな。
「加賀くんメアド交換しよ!」「あたしも!」「穂村くんは?」
普通科の派手女子たちが、加賀と穂村に連絡先を聞くために集まった。穂村は丁重に断ってるが、加賀は「うっせーよ散れ!」の一言で片付けてしまった。
かと思ったら派手な男子数名が鈴音のところへ。モテるよなあ。しかし全員、鈴音にお断りされていた。
気がつけば16人全員揃い踏み。ノイズ先生が挨拶を。
「普通科の皆さん、今日は来てくれてありがとうございます。
長々とした挨拶はする気はありませんが、お互いマナーを守るように。くれぐれも暴動などを起こさないようにな」
先生はまた私をチラリ。だから何もやらかしませんよ!
そして授業が始まった。観客がいることもあり、先生はバトル形式を採用。
「これにて1年龍組トーナメントを行います。対戦表はこちら!」
訓練場の白い壁に、対戦表が映し出される。私の相手は可憐。そしてトップバッターだ。
「池亀レナ、虫属性! 神谷可憐、異属性!」
先生の紹介のもと、私たちはフィールドへ。みんなが見ているのは緊張するけど、私はもう1人じゃない。
それにイメチェンした可憐のデビュー戦でもある。勝っても負けても意義ある戦いにしないと。
貧血になるから可憐の異能はコピーできない。なので蝶だけの勝負だ。私は先生の合図を待った。
「初め!」
私は大量の蝶を出して可憐を襲わせる。綺麗なチョウチョに女子たちがキャッキャしている。つかみは成功。
よし可憐、やっちゃって! 龍組のマッスル担当は強かった。血液が水鉄砲のように飛び出し、蝶を全部撃ち落とす。上腕二頭筋がピックピク。
こっちも派手。よし、ここから挽回を……。
と思っていたら突然観客が騒ぎ出した。女の子が倒れている。
「どうしたの?」「血を見て気持ち悪くなっちゃったみたい」「保健室行く?」
バトルは中断。ノイズ先生が駆け寄った。私も様子を見に行こうとしたが、可憐の顔を見て足が止まる。
可憐は顔面蒼白になり震えていた。手から血が滴り落ちている。床も血だらけだ。私たちにとっては見慣れた光景。でも普通科の子は異能にも怪我にも縁がない。
「私のせいだ……」
生まれ持った異能は変えられない。だから可憐は努力してきた。それが全部無駄になってしまう。
これは誰も悪くない。たまたま血が苦手な子がいたってだけ。でも今の可憐には絶対起こっちゃまずいこと。
私はなんて言っていいかわからず突っ立っていた。女の子は担架で保健室に運ばれ、ノイズ先生が神谷の肩を叩く。
「気に病むなよ。私のセミだって近所迷惑だって散々言われたからな。でも必要なのは可愛い異能じゃない、戦える異能なんだからな」
「そうですね」
届いてないみたいだ。授業はそのまま続投したが、可憐は終始おとなしくしていた。
そして授業が終わるや否や、異能訓練場を飛び出してしまった。
倒れた女の子のことは責められない。でも可憐にだって落ち度はない。
このまま異能師への道を進むなら、あの異能を隠すことはできない。多分同じことが何度も起こる。
可憐に会わなきゃ。寮に走った。途中、鈴音たちも巻き込んで。
*********
「談話室は?」「女子寮は?」「購買にもいなかったよ」「図書室にもいねえ」
私たち4人組は、可憐がいそうなところを探した。でもどこにもいない。
「ジムじゃないかな」
残りはそれくらいだ。ダメ元で行ってみたら、可憐がベンチに座っていた。鈴音たち3人には入り口で待機してもらい、私だけこっそり中へ。
他には誰もいない。可憐の手にはスマホが。動画を再生しているのか、軽快な音楽と誰かの声が聞こえる。
『異属性の異能師、ロックンロールさんです! わー! かっこいい!』
静かなジムに、女性インタビュアーの声が空虚に響く。小さな画面に、えんじ色ロングヘアの男性が映っている。
『よろしくお願いしまっす! なんでも聞いてください!』
『ありがとうございます!
ロックンロールさんは男気ろくろっ首と呼ばれていますが、今の時代にそぐわないと言う声もありますよね』
なんて意地悪な質問を……でもロックンロールの声は明るいまま。
『男気ってのは性別の話じゃないっす。自分より弱い人を守る心意気のことです。男気があれば誰でも
『異属性ってグロいイメージあるじゃないですか。俺も妖怪呼ばわりされて、友達がいない時もありました』
『きっと同じことで悩んでる異属性の子はいると思うぜ! だから俺はあえて言う。
異属性ってのは男気溢れる属性なんだぜ! 自分を恥じることなんかねえ!』
『その素晴らしい異能はグロくなんかねえ。だから腐るな! 道を踏み外すな! 人のために使うんだぜ!』
『熱いメッセージをありがとうございます! では、2019年ルーキー異能師特集でした!』
何年も前のインタビューだ。これが可憐の原点。
でも可憐の顔に希望はなかった。ロックンロールの言葉すら響いていないみたいだ。
私の足音に気付いたのか、可憐はこっちを向いた。
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