第3話 男子3人に話しかけろ! 先生に鬼畜課題出されました!
穂村以外の男子3人と会話ラリー5回。
最初のターゲット・御霊麗夜とは3回しか続かなかった。でもこれは誰も悪くない。
数学の宿題ネタはもう使っちゃったけど、私には鉄板ネタがある。異能のコピーをさせてほしい。使い方のコツを教えてほしい。
ここは異能バトル科だ。何も不自然じゃない。次のターゲットは……。
「ねー氷川、ちょっとだけ異能借りてもいい?」
気を取り直して、私は別の男子に話しかけた。
氷川雪緒くん、氷属性。小柄で可愛い顔、水色のセミロングヘアが似合っている。
「は?」
そしていきなりの塩対応。
「えーと、ちょっと暑いから……」
「やだよ。僕女子嫌い」
はい終了! 女子が嫌いならしょうがないか〜!
**********
なんてこった。女子が苦手、女子が嫌い、このクラスハードモードだな。
そしてあっという間に昼休み。いつも通り鈴音と食堂でお昼を食べることに。食堂の真ん中あたりで向かい合って座る。
「ここのハンバーグ美味しいよね」
端っこを選ばないあたり鈴音の強さが垣間見えるよなあ。男子がチラチラと鈴音を見ているのがわかる。
「御霊と氷川に異能借りようと思ったんだけど、断られちゃってさ」
コミュ力お化けの鈴音に相談だ。手は借りるなと言われたけどこれくらいなら多分大丈夫。
「2人とも私にも塩対応なんだよね〜」
御霊はしょうがないとして、氷川は鈴音みたいな美少女もダメなのか。これは筋金入りの女子嫌い。
「逆に塩対応じゃない男子っている?」
男の大半は鈴音に優しいだろうけど、一応ね。
「んー、大体みんな優しいよ? でも加賀は結構言葉きついよね。誰にでもあんな感じだし」
え、鈴音みたいな可愛い子にもアレなの。じゃあ私を嫌ってるってのは……と思っていたら、私の横に誰かがドスンと腰を下ろした。
穂村だった。斜め向かいには加賀。
「お疲れ」「腹減った」
なんで私の横に? まさか同じグループだって思われてるってこと?
今度は女子たちがチラチラ。鈴音が可愛い顔に闘志を滲ませ始めた。
「2人とも、御霊と氷川の攻略方法わかる? レナがコピーしたいんだって」
すると加賀が。
「氷川は知らねーけど御霊は同じ中学だった。お前らあんまりギャーギャー騒ぐなよ。恥ずかしがり屋だからな」
「よし! 来週の授業でとっ捕まえてレナにコピーさせよう!」
「話聞けやバトル脳!」
本当に鈴音にもキツい。
「つーか退屈だな。誰か面白い話ねえの?」
あるわけないでしょ! と思ったら鈴音が。
「うんこ! ちんこ!」
「食事中だろうが! つーか卒業したわ!」
「だはははは!」
「穂村は卒業しろや!」
私、笑えてるかな。鈴音のギャグがつまらないからじゃないよ。人間の集まりが怖いから。
放課後、私は談話室のソファで1人思案していた。鈴音曰く、加賀は誰にでも言葉がキツい。それに私の斜め向かいに座った。
もし私を嫌ってるなら、遠慮しないで失せろぐらいのことは言うよね。一応私をグループの仲間だって認めてるってことかな。判断しづらい……。
「お疲れー」
「おわあ!」
穂村だ。当たり前のように隣に座ってくる。
「氷川と御霊のこと残念だったな」
「女子が苦手なのはしょうがないよ。私も男子苦手だし。穂村は平気だけど」
「それは光栄ですねえ。俺も池亀と話すの楽しいわ」
感激! まさか話してて楽しいと言われる日が来るとは!
よし、この調子で先生の課題をクリアしよう。大丈夫、できるできる! 加賀のことはとりあえず忘れよう!
*******
月曜日の放課後、中間報告……の予定だったが、先生が事務作業があるとのことなので中止。
課題はまるでクリアできていない。私は寮のソファでぼんやりしていた。ターゲットは誰にすればいいんだ……。
「ねえ」
やや高い男子の声が後ろから。白い腕がにゅっと伸び、私の肩を乱暴に掴む。手は冷たいが、暑くなりつつあるこの時期には助かる。
「氷川?」
女子嫌いの氷属性美少年、
「どーも」
「え、あ、お疲れ……」
「僕の異能、貸してあげていいよ。勘違いしないでね。池亀さんのことは嫌いだから。というか女子全般が無理だから」
どういう風の吹き回しだろうか。でも気にせず受け取ろう。
「わかった。手を貸して」
「どうぞ」
手に触れ、手のひらに氷を出してみる。私の力だとちょっとしか出せない。
「冷た……くはないね」
「ふーん、体質ごとコピーしてるんだ。チートだね」
「使いこなせてはないけどね」
「1回戦敗退の雑魚だもんね。じゃーね」
なんか会話というより罵られてただけな気がするけど、ギリギリで5ラリー達成! 意外と行けるかもしれないぞ!
******
そんなわけで金曜日、私は報告を終えた。
「もう全然ダメです。半分は罵られてましたし」
「やろうとしただけで十分だ。ところで喋った男子にコミュ力はあったか?」
そりゃあるでしょ。私よりコミュ力ない人間はいない……あれ?
「穂村以外は確かに微妙でした。ていうかやばい部類に入ると思います。御霊はしょうがないけど、加賀と氷川はコミュニケーション取る気ないでしょ」
「貴様ら思春期どもが考えてる『コミュ力』なんて、結局はそんなもんなんだぞ」
私だけじゃない、意外とみんなコミュ力がない。新しい発見だ。
「明日は土曜日、どうせなら映画に穂村を誘ってみたらどうだ? トレランの映画やってただろ?
いい仕上げになるぞ。こういうのは1番話しやすい相手がいい」
「お、おお……ついにですか」
まさか人生でそんなイベントが起こるとは。もちろん異性と2人で出かけただけでデートだの付き合ってるだの騒ぐほどお子様じゃない。
でも嬉しいな。普通の人間になれたみたいで。
だが。
5月の清々しい青空の上に、運命を操作する誰かがいるとしたら。5月病で鬱になっていたに違いない。
「おい池亀」
その帰り、寮の談話室であいつが話しかけてきたのだ。義務教育フィールド強者の加賀正志に。
「なんか用?」
早速声が震えている。でも負けないぞ。
「トレランの映画行こうぜ」
……え?
「明日12時半に談話室な。制服着て来んなよ、目立ちたくねえから」
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