第2話 ターゲット変更!!




「今日は火曜日、しかも貴様からの呼び出し。これはトラブルの匂いだな」


「せんせぇ……」


 職員室にいた先生を引っ張り出し、いつもの会合場所へ連れてきた。


「どう考えても加賀に嫌われてます……」


 朝食でのやりとりを打ち明ける。


「そうか。もし加賀がダメなら、ターゲットを穂村に変更するか?」


 意外な提案だ。


「いいんですかそんなことして」


「穂村は友好的だったんだろ? 加賀との相性の悪さは計算外だったが……私もその辺は観察させてもらうよ」


 今回の目標は異性への苦手意識の克服。当然と言えば当然の選択。


「ダサくてキモくて地味だから嫌われるんですよね。男子ってみんなそうだし」


「おしゃれで可愛くて清楚だぞ。それに嫌われない人間なんかいないからな。明日からは穂村に話しかけてみろ」


 それなら難易度はグッと下がる。肩から力が抜けてきた。


「それにしても……」


 今度は妙に腹が立ってくる。


「ブス扱いしやがって! 次のトーナメントでぶっ潰す!」


「落ち込んだり怒ったり、なんと情緒不安定な。難しい年頃だな」


 最後はツッコミが逆になり、臨時会合は終了となった。









「しかし……加賀は誰にでもあの調子だった気がするがな」


「え?」


「なんでもない、頑張れよ」






*******






 翌朝、私は教室で穂村に話しかけた。


「おはよー穂村」


「あ、池亀おはよ」


 なんだこれ、加賀に話しかけるより200倍は緊張しない。


 穂村は背が高いので自然と首が曲がる。褐色肌に端正な顔立ち、炎属性の赤ネクタイも似合う。


 ブレイズをまとめてポニーテールにしていて、顔の横に1本ずつ垂らした髪型。穏やかでゆるい雰囲気が話しかけやすい。


「ちょっとこれ見て」


 話題はもう考えてある。私は親指を立ててタングステンに。


「お、すげえ」


「異能を何分コピーできるか特訓中。あれ?」


 穂村のリュック、見慣れたキャラグッズがぶら下がってるけど……。


「トレラン好きなの?」


 トレジャーランドの女子キャラ2人だ。城ヶ崎と相澤。


「そうそう。8巻で2人が共闘したのは燃えたよな。池亀がつけてる猫ちゃんも可愛いな」


「鈴音にもらったんだー。そうだ、最新刊がさ……」








 奇跡、奇跡だ。朝のホームルーム中、私は1人で感動していた。


 この池亀レナが男子と普通に喋っちゃった! 相手を変えるだけで随分変わるもんだなあ。


 それにしても、なんで加賀に嫌われたんだろ。


 どうせ私が可愛くないからだろうけど、バトル学の時間で必ずボコボコにしてやるからな!



********





「穂村と仲良くなったか。それはいいことだ」


「そんなことより次のトーナメント戦はいつなんですか!?」


 金曜日の会合で、私はいつもより元気だった。それはもう色々な意味で。


「今のところ未定だ。それに」


 先生は神妙な顔。


「加賀が心配なんだ。あんなに態度がキツくては、いつか孤立するんじゃないかと思ってな」


「いやでもあいつクラスの人気者ですよ」


 人気者は態度が悪くても許されるのだ。悔しいけど。だが先生は首を振る。


「教師として生徒のルックスに言及するのもアレだが」


「そんなコンプラ意識あったんですか?」


「さすがにあるわバカモンが。

 加賀はイケメンで運動能力も高い。ヒエラルキートップに立てる才能がある」


 イケメンで足の速い男子が1番モテる、この世の真理。この際中身なんて関係ないのだ。


「だがそれが通用するにはせいぜい中学生まで。それ以降は気遣いのできないヤツは嫌われる」


「狭くて逃げ場がない義務教育フィールドでしか通用しないドブカス人材ってことですか?」


「なんて口の悪いヤツだ。だがその通り。幼いうちは、周りもターゲットになりたくないから従う。でも最後は孤立する。

 今のうちに治さないと碌なことにならない」


「痛い目みないとわかんないでしょ。ボコボコにすりゃいいんですよ!」


「コンプラ意識がないのは貴様の方だぞ。その辺は私に任せておけ。池亀はそういう陽キャになるなよ。さて目標の方だが」


 先生は思い出したように手を叩いた。


「男子への苦手意識は克服できたか?」


「穂村とは普通に話せます」


「他の男子はどうだ。加賀を除いた6名」


 名前と顔を順繰りに思い浮かべる。首を横に振るしかない。


「それじゃダメだ。1人や2人、個人的に苦手な相手がいてもいい。でも特定の男子としか話せないようじゃ克服とは言えない。進歩ではあるがな」


 まさにそうだ。穂村はそもそも話しやすい人だし、私の異能はコピー。人類の半分が苦手じゃダメだ。


「では来週の金曜日までに、男子3人と会話してみろ。挨拶だけじゃなく、ラリー5以上だな。針ヶ谷は頼らないこと」


「3人ですか!?」


「穂村以外のな。来週月曜日は中間報告だ」


 今日は金曜日、つまり1週間で仕上げないといけない。でもやるしかないよね。先生は私の虫籠を壊してくれた人だもん。


 それに私だって、人類の半数相手に心を閉ざしたままでいたくないしね。





*********





 土曜日の朝、ホームルーム前。生徒は全員揃っている。穂村以外の男子3人と会話ラリー5以上。


 私は鈴音が加賀や穂村とおしゃべりしているのを確認し、リュックから『仕込み』を取り出した。


 トレランのファイルに入った、数学の宿題プリント。1問空欄にしておいた。それもそこそこ簡単な問題を。


 ちょっと写させてもらう。これで完璧だ。トレランのファイルで会話のきっかけになるかもしれないしね。


 よし! 私は教室を見回し、ある男子に狙いを定めた。





 御霊麗夜みたまれいやくん。闇属性のおとなしい男子生徒。細身で背が高く、紺色のボサボサ頭が特徴。寝不足なのかクマが濃い。


「おはよー御霊」

 

 鈴音の真似をして声をかける。だがそこでハプニングが。


「は、はい、おはよ……」


 御霊は目に見えて緊張していた。目が泳いでいる。あ、これって女子が苦手なタイプかな?


 加賀みたいな拒絶はされてないし、これは全然気にならない。なんなら私もそっち側の住民だし。よしやるぞ!


「数学の宿題、1問だけ写させて?」


「どどどどどうぞ……」


 御霊は震える手でプリントを取り出した。私は問題をメモ。


「ありがとね」


「あ、はい……」


 終了。まだ3ラリーだけど、御霊のライフがゼロなので中断。気持ちは痛いほどわかる。異性ってただそれだけで怖いもんね。


 しかし先生の課題をこなす相手としては難しい。向こうの心臓が危ない。となると……。

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