真宵猫ー猫神村
食事を終えた
「この田んぼ道、確かここら辺から結界に阻まれたんですよね。」
横を歩く先生に目をやると日傘を右手に持ちながら左手で羽ペンを宙で動かしている。
「人除けの結界があるようね。解呪だけなら簡単だけど――――どうもこの結界、変なとこと繋がってるみたい。下手に解呪するよりかは結界に穴を空けて入る方がいいわね。」
動き続けていた左手がぴたりと止まる。どうやら完成したようだ。
すると先ほどまで何もなかった先生の周りに文字のようなものが数百、数千と浮かび上がりそれは輪となって怜と先生の周りを囲う。
パキンと何か割れる音がしたかと思うと先ほどまで永遠に続くかと思えた田んぼ道の先に今までなかった村が姿を現した。
「成功したみたいね。」
「す、すごいです。自分たちを結界に認識させないようにしたんですね……。」
「ええ、まあでもすごいと言うけれどあなたでもできるわよ?帰ったら教えてあげるわ。」
「ほ、本当ですか!?ぜひお願いします!」
そんなことを話していると村の方から数人、武装にしては貧相だが鍬などの農具を肩に担ぎこちらに近づいてくる人影が見える。
後ろに控えている人たちは離れているため正確にはわからないが困惑のような表情を見せている。
ただ先頭に立つ年若くガタイもしっかりとした男からは確かな殺気をこちらへと飛ばしている。
ここでふと意識が暗闇へ落ちる。
思い出したくない記憶がフラッシュバックする。
―――怜、相手が本気の殺意を向けてきたのなら自分の持ちうる限りの力を使いやられる前に相手を殺せ……。
体が勝手に動く、腰に挿していた杖に手で触れる。
殺意には殺意で――――
「怜、さがりなさい。」
「え―――……」
何かに襟首をつかまれ少し後ろへと引っ張られる。
後ろを振り返ると黒衣の衣を纏った怜より三倍ほどの大きさの骸骨が人差し指と親指の骨で怜の後ろ襟を掴んでいる。
「
「死骨、しばらく怜を頼みます。怜、あなたは何もしないで、話すことも怒ることも許さない。いいわね?」
「―――!わかり、ました……。すみません、先生。」
「いいわよ。」
一瞬だが先生の雰囲気が変わった。
二、三度深呼吸する。まだ体は疼くが先生が前に立ち後ろには死骨がいる。大丈夫だ。
ふと気を抜けばあの男を殺しに行く、確実に……
気持ちを整えていると村人たちが近づいてきた。
「お前たち何もんだ!?どこから入って来た!?」
まず声をかけてきたのは殺意を向けてきた男、戦闘に立つ分リーダー格なのだろう。ただ警戒だけならまだしも話しかけてきた今でさえ強い殺意を向けている。
殺意にもいろいろある、例えば殺す気のない殺意や威嚇感覚での殺意など、ただこの不快な体に突き刺さるような殺意は相手がだれであれ問答無用で殺すと言っているような殺意を向けている。というかこいつだけ斧を持っている。見るからに殺意剥き出しだ。
「私たちは―――探偵みたいなものよ、ここには依頼できたわ。どこから~というと正面から堂々と入って来たわ。こう言った回答で大丈夫かしら?」
相手を逆撫でするような発言、案の定、殺意を飛ばしていた男がキレる。
「ふざけているのか!?」
「ふざけてないわよ、まじめに回答した結果じゃない。」
「このガキが!調子にのってんじゃねぇぞ!」
今にも先生へ飛び掛かろうとしている男を後ろにいた老人が腕で壁を作って止めている。
「や、やめろ
殺意を向けているこの男は荊芥と言うらしい、そんな荊芥を諫めている男は年老いた老人、彼は武器すら持っておらず他の後ろについて来ている男たちから小声で何か話しかけられていることからもこの村の相談役か目上に立つものなんだろう。
「こいつは子供じゃねえ!そこのバケモンが見えねえのか!こいつはこのガキが使役してんだよ!しかも御社様の結界を破って入ってきやがった!このガキは絶対この村の敵だ!」
荊芥は死骨を指さししきりに何か後ろの仲間に訴えているが後ろの村人たちは首を傾げて困惑している。
「ど、どういうことや?バケモンなんてんなもん居らんぞ?」
「御社様の結界ってなんだ?この村に結界なんてあったのか?」
「というかお前さんがいきなり武装した敵が来たと言ったから警戒したのに居ったのは子供が二人、お前さんにはこの子供らが武器持ってるように見えるんか?」
「い、いやだからだな―――……。」
どうやらあの男が村人たちを先導してきたようだがその村人たちとは意思の疎通ができていないらしい。
いつの間にやらあの男からの殺意も消えている。
体の自由が利くようになったので先生の横に立ち男たちに話しかける。
先生の言いつけを破ることになるがこのまま先生が話していると荊芥に本当に攻撃されそうなので荊芥のためにも自分が主導権を握る。
「皆さん、お騒がせしてすみません。僕たちは探偵兼祓い屋のようなお仕事をしておりまして、もしかしたら僕が持っている物のなにかがそこの男性が言っている結界に反応してしまったのだと思います。」
「うん?お前さんは探偵なのかい?」
「ええ。」
先ほどから荊芥をなだめていた老人が前に出て怜と先生を見比べる。
品定めしているような眼、あまりいい気分はしない。
「ふむ、そっちの嬢ちゃんも探偵なのかい?」
「まあはい、そうです。」
「……。」
老人は顎から生やした立派な髭を触りながら少し考え込むと一歩引いて頭を下げた。
「すまぬがお二人に依頼してもよろしいか?」
「依頼、ですか?」
「長老!」
長老、荊芥はそう目の前の老人に向かって呼んだ。やはり彼はあの村の長らしい。
「あやつのことはすまんが気にしないでおいてくれ。それで依頼なんじゃが頼んで大丈夫かの?」
先生の方へチラリと視線をやる。
先生と視線が合う。目配せでお好きにどうぞと若干呆れた目で合図される。
「ええ、大丈夫ですよ。」
「そうか、ありがとう。ここではなんじゃから話は村の中でしよう、ついて来てくれ。」
長老と呼ばれた老人はこちらに好意的なようだがやはりあの荊芥だけは反対の意思を示している。
「長老!待ってくれ!こいつらは村に入れるには危険すぎる!何の依頼なのかは知らないがここで話すべきだ!こいつらを村に入れれば災いをもたらすぞ!」
数人の男に羽交い締めにされながらも叫ぶ荊芥、そんな荊芥に長老は近づくと何か耳打ちをした。
「―――――」
「―――――ッ!わ、わかった。くそ!もうなにもしねぇ~から放してくれ!」
荊芥の拘束が解かれると舌打ちと共にこちらを睨みつけ早々に村へと一人で帰っていった。
「はあ~あやつは……。すまなかったお二人とも、ではご案内しよう。ようこそ、我が村、猫神村へ。」
結界で覆い隠されたこの村、猫神村。何十匹もの猫が消えた乙窪神社があるその村へ怜たちは足を踏み入れた。
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