真宵猫ー魔女擬き《ウィッチクラフト》ー1

れい、ちょっと耳を貸しなさい。」

「なんでしょう?」


 長老に案内され村へと向かっている途中、袖を先生に引っ張られた。


 先生に合わせ少し腰を落とし耳を近づける。


 先生の吐息や息遣いが間近に感じられる距離まで顔が近づけられると周りには聞こえないであろう小声で耳打ちされる。


「今からは常に杖を握りしめていつでも戦闘ができる態勢をとりなさい。今回、何かあっても私はあなたの手助けをしないつもりだから自分の身はしっかり守りなさい。」

「え?……は、はい、わかりました。」


 いつもなら先生はこんな小声で耳打ちしたりなどはしない。大事な話なら誰にも聞かれないように魔法による念話で話しかけてくるためだ。


 何かあるのは確かなのだろう。


 先生に確認する時間も無さそうなのでとりあえず怜は先ほども触れた腰の杖を取り出しいつでも取り出せるように右袖にしまう。


 そんなことをしていると長老が話しかけてきた。


「先ほどは家の荊芥けいがいがすみませんね。」

「あ、いえいえこちらこそ挑発するような態度を取ってしまって……。」

「いえそのことはお構いなく。ただできればでいいのですがあの子のことを許してやってはくださらないでしょうか。根はとてもいい子なんです。」

「は、はあ~わ、わかりました。」

「おお~!ありがとうございます。」


 そうこうしていると村にたどり着いた。


 村の中はほとんどなにもない、昔の藁や木材なんかで作った古い家が数件チラホラ建っており村の奥に石の鳥居が見える。


 そして視界の端に明らかに違和感のある建物が建っている。


「ささお二方こちらへ、我が家でお話ししましょう。」


 さっきからチラチラと見えており違和感を覚えていた建物に案内される。


 タイムスリップしたのではないかと思えるほどの古い民家が建ち並ぶ村だが、案内された長老の家だけは首を傾げるレベルに違和感がある現代のコンクリート建築の建物だ。


「違和感すごいわね……。」

「ハハハ、よく言われます。さ、段差がありますのでお気を付けください。」


 家の中のリビングまで案内される二人。


 家の中も現代にあるような普通の家だ。本当に違和感がすごい。


 案内されたソファーに二人で腰を下ろすと奥方であろう女性がオボンを持って現れた。


「どうぞ、粗茶ですが……。」

「ありがとうございます。」

「まずは私はこの村の長老を任せられている古佐目ふるさめと言います。こちらは私の妻です。えっと、それであなた方は探偵様―――でよろしいのですかね?」

「あ、はい、そうです。」


 実際は探偵でもなんでもないのだがまあこのさい仕方ない。


 先生は出されたお茶を飲んでくつろいでいるため怜が話を進める。


「まずは遅れてすみません、僕は夏場なつばれい、こっちは僕の助手のようなものです、なので気にしないでいただくと助かります。」

「ふむ、夏場さんに助手さんね。その……失礼を承知でお聞きしたいのですがね、夏場さんの年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「二十一になります。」


 本当はまで十八なのだが探偵と名乗った以上成人してないのは違和感を覚えられるだろう。


 さっきから嘘しかついてないがこれも仕事なので仕方が無い。


「あ~二十代なんですね。とても若く見えたのでまだ十代なのかと……。」

「あははは……よく言われます。」


 流石に無理があったかな……。


「それで話を戻すのですが私からの依頼も受けてくれるという話でしたが受けてくださるのですか?」

「あ、はい!それでどのような依頼なのですか?」

「実はですね、ここにいる村人たちが騒いでいることがありまして。ここ半年ごろからでしょうか。ここに向かっているとき見えていたと思うのですが、この奥にこの村の象徴とも言える神社があるんです。そこにはここの村の名前の由縁でもあるように数十匹以上の猫が住処としているのですがどうもここ最近その猫たちが姿を消しているらしいのです。しかも夕方頃でしょうか、猫を襲っている人影を見たという報告を聞きまして……。私を含め、ここにいる村人は猫を神の使いとして崇めているためそのような者がいるのであれば対処したいのです。」


 猫……今回の依頼と関係があり、かな?


 話を聞きつつそんなことを考えていると横から奥方が二枚の書類と一枚の写真を置いてきた。


「こちらは?」

「村人たちから聞いた意見をまとめた書類になります。こちらの写真は人影を写した写真です。何かに役立てばよいのですが……。」

「ありがとうございます。お預かりしますね。」


 写真に目をやると神社の境内に猫が数匹と奥の森に確かに人影らしき何かが映っている。ただ背格好すらわからない。本当に人影だけだ。


 もう一つの書類に目をやると村人の様子や境内の猫の情報が事細かく記載されている。


「この書類とても読みやすいですね。」

「それはうちの妻が書いたんです。彼女、こういったまとめることがとても得意なんです。」

「へ~そうなんですね。」


 資料はここまで書くかと言ってしまうくらい綺麗に書かれている。ただ丁寧に書かれすぎているためか読みやすさを度外視されていて読みずらい。


 書類に目を通していると思い出したとばかりに長老は気になっていたことを聞いてきた。


「あ、そう言えばここには依頼で来られたと言われておりましたがどのような依頼で来れれたのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「そう言えばお話していなかったですね。僕たちは猫の捜索依頼でこちらまで足を運んだんです。」

「猫の……ですか?」


 怜は依頼の内容を少し嚙み砕いて説明した。

 

「調査をしているとここら辺に猫の集まるスポットがあると聞いてここに足を運んだんです。」

「そういうことだったのですね。でしたら今回の我々の依頼とも合っているようですね。」

「はい、ですので並行して調べれればなと思っております。」

「よろしくお願いいたします。夏場さん。」

「はい、お力になれるよう手を尽くします。」


 



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