真宵猫ー結界

 綺麗な茶畑に田畑、辺りには人工物は何もない。


 れいはそんな田舎道を歩きながら首を傾げる。


「迷った……」


 今回の目的地は乙窪神社、それは鹿児島県の神功じんぐう市にある神社だ。


 先生はやることがあるとかで怜一人で先に現地へと赴いた。最初スマホの地図アプリを頼りに乙窪神社を目指していたのだがいつの間にやら見失ってしまった。


 見失ったというよりも永遠に目的地に着かないと言った感じだ。かれこれ三時間近く同じ景色を見ながら同じ道を歩んでいる。


「これは……やはり何かの魔術的要因が絡んでいるとみるべきなのか?」


 魔術、日本では妖術や呪術などと呼ばれているものなのだが主に日常的、現実的にはあり得ない超常現象を起こすことを指す。


 今現在、怜が陥っている目的地に着くことができないということも魔術には存在する。いわゆる結界のようなものでその場所に行こうという意思があるものは入ることができないという魔術だ。意思がなく迷い歩いて着くということはできるが今の怜にはたどり着きたいという意思があるためその手段は使えない。


「先生に助けを求めるか」


 怜はスマホの連絡先を開き先生に連絡しようとするとスマホが揺れ画面を見るとタイミングよく先生からのコールが鳴り出した。


「怜?あなた今どこにいるの?」

「すみません、どうも人払いの結界に入っちゃったみたいで抜け出せないんです」


 するととても大きなため息が画面越しに帰って来た。


「はあ~!怜、あなた何をしているの?」

「すみません……」

「仕方ないわね、今そっちに行くからちょっと待ってなさい」


 プツンと電話が切れると目の前の空間が歪みポッカリと人ひとりが通れるぐらいの大きな穴が開く。


「迎えに来たわよ、怜」


 声と共に見慣れたゴスロリ衣装の先生が日傘をさしながら現れた。


「先生すみません……」

「気にしなくていいわよ、それじゃあ近くの温泉宿を予約しておいたからそこに向かうよ」

「家じゃないんですか?」

「なに言ってるのよ、せっかくここまで遠出したのに現地の温泉街に止まらないという選択肢は無いでしょう」

「さいですか」


 言うと先生はくるりと踵を返し、先ほど出てきた穴へと戻っていった。


 怜もまた先生の後を追い、空間に開いた穴を通る。一瞬の暗闇、次に目を開けたとき目に入ったのは一際大きな温泉旅館だった。

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