真宵猫ー依頼ー3

 二百万と書類を両手に抱え、部屋に戻ると先ほど作ったマフィンをたいらげた先生が食後のティータイムをしながら優雅にくつろいでいた。


「先生、ただいま戻りました」

「おかえり、れい。依頼は受けられたの?」


 自分は受け取った資料と写真、それと追加で課せられた依頼の内容を軽く説明した。


 依頼内容などを聞いているときは落ち着いて聞いていたがエリシア協会の話を口にしたとたん表情がだんだんと曇りを見せ最後には怒りをあらわにした。


「はあ~エリシアの生き汚いドブネズミどもめ、まず二百万ぽっちで私が動くわけがないでしょ!!しかも私に直接言えばいいものを怜を仲介に依頼を受けさせようとするなんて!はあ~本当にイライラする!」


 空中で足をバタバタとさせながら怒りを表す先生。空中で足をバタバタさせているのにも関わらずスカートがくずれてしまうことはない。


 怒る先生をなだめ、藤山さんの依頼について方針を聞く。


「まあ協会の依頼は期日などは特に告げられてませんですし無視でよろしいのではないでしょうか?それよりも猫探しの依頼、どうしますか?」

「ええ、そうね。……はあ~さて、依頼について話しましょうか。怜、この迷い猫探しの依頼、少しめんどくさい依頼かもよ?」

「というと?」


 先生は軽く空中で指を振ると机に入っていた書類を自分の目の前に引き寄せた。


「それは?」


 先生の後ろから覗き込む形で書類に目をやると数十の資料一枚一枚に別々の依頼主と迷い猫の捜索依頼と書かれた紙が目に入った。


「ここ数日でネット掲示板と直接依頼で来た迷い猫捜索依頼の数、全部で四十三あるわ」

「四十三、結構な数ですね」

「それに何よりこの依頼全部同じ市内で起こっているのよね」

「―――!?異常、ですね」


 この万能堂は先生の魔法で作られた建築物だ。どこにでもあってどこにもない。ただ求める人がいればもともとそこにあったようにこの建物が現れ、この何でも屋の一階に入ることができる。 


 仕組みは先生の魔法とネットを利用したものなのだが先生いわく助けを求める声の下にこの万能堂へ通じる道が現れるのだとか。そのため全国規模で様々な依頼が入ってくる。と言ってもそこまで多くの依頼が舞い込んでくるわけではない。今回の依頼だって久々に来た依頼だ。


 普通ペットの捜索依頼はよくて数週間に二、三度だ。


 だから先生のと合わせた四十四の依頼が同じ市内で同じような依頼で来ることなどまれである。


「猫たちの捜索はもう終わっているのですか?」

「ええ、もちろんよ。どこにいるのかは今も常に見えているわ。ただ、どの依頼の猫も全員同じ場所で固まっているの」

「その場所は?」

乙窪おちくぼ神社跡地よ」


 先生はそう言うとテーブルの方に魔法で作ったであろう地図を広げてその場所を指さした。


 見ると最初は日本の全国地図だったのが九州地方まで縮小後、鹿児島県の地図まで拡大し最南端を指さしていた。


 先生の魔法があればスマホ要らずらしい。


「ここは―――南大隅町、ですか」

「ええ、南大隅町の―――ここ、に乙窪神社があるわ」


 そう言って先生は南大隅町の中心部に指をさす。


「この乙窪神社って昔は有名な神社だったのだけどいつの間にか誰も管理する人がいなくなって廃神社になったみたい」

「その廃神社に迷い猫がいるんですね」

「まあ……そうね」


 歯切れの悪い返事に違和感を覚え先生へと視線を向けると地図に視線を落としたまま何かを考え込んでいる。


「どうされました?」

「ん?ああ、気にしないで。どうせ行ってみればわかることだから」


 それ以降先生が何かを考える素振りを見せることはなく僕たちは捜索依頼を出された猫を探しに行くべく鹿児島県の乙窪神社へと足を運ぶべく準備を始めた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る