グリーンドラゴン

アーキルは普通の国スタンガルドの傭兵団の一員として、攻め入ってくる強欲の国ガーヴァと何度も戦った。

アーキルの強さは遺憾なく発揮され、めきめきと評価を上げていった。


そんなある日、ドラゴンが1匹出現したという知らせがアレジスタの町にもたらされた。アレジスタの町は普通の国スタンガルドの北端に位置する町で、強欲の国ガーヴァとの戦いの拠点であり、すなわち傭兵団の拠点である。

そして、傭兵団にそのドラゴンを討伐するよう指令が下った。


本来、傭兵の仕事は人間相手に戦うこと。魔物との戦いは冒険者の領分だ。

しかし何故か今回は、アレジスタの町を治めるレギズダン伯爵の直々の命令とのことだった。


ドラゴンは強大な魔物だ。

しかし一言でドラゴンと言っても、ドラゴンには様々な種類があり、強さも異なる。

今回出現したのはグリーンドラゴン。ドラゴンの中では最も弱いとされるドラゴンであり、熟練の戦士ならば一人でも倒せると言われている。


アーキル「おっしゃあ!!オレにやらせろ!」

相変わらず強さを求めていたアーキルは、グリーンドラゴンの討伐に嬉々として志願した。もちろん一人で戦うつもりだった。

アーキルの強さは周知のことだったので、志願自体は受け入れられたが、さすがに一人で戦うことは却下された。傭兵団としては着実にドラゴンを倒せればよく、それには複数人でかかるのが効率良いからだ。

傭兵団長「お前に万が一のことがあったら、傭兵団にとっても大きな損失だ。分かってくれるな?」

アーキル「ちっ、仕方ねえな…」

傭兵団やサラム人の間では、強さこそ正義。アーキルはまだ傭兵団長に敵わなかったので、傭兵団長の命令にはしぶしぶながらも従った。


・・・


グリーンドラゴンが暴れているのは、アレジスタの町の近くの街道付近だった。

討伐されなければ、街道を使うのも危険だ。

アーキルは4人の傭兵と共に、グリーンドラゴン討伐に赴いていた。


ドラゴンは大きなトカゲと言われることもあるが、グリーンドラゴンは砂トカゲや火トカゲサラマンダーと異なり、ただ動物のトカゲを大きくしたような形ではなかった。

長い首を持ち、腕を地に着けることはあるものの、二足で立ち上がることも出来る。そして飛ぶことは出来ないが、大きな羽を持っている。

体高は人間の2倍以上ある。


傭兵A「いたぞ、グリーンドラゴンだ」

傭兵B「やっぱりでかいな…!」

アーキル「よし…!」

傭兵C「いいかアーキル、くれぐれも一人で突っ込もうとするんじゃねえぞ?」

アーキル「わかってるさ。何度も言うな」

傭兵D「何度も言わねえと分からねえだろうが、お前は」


グリーンドラゴンは長い首を伸ばして、向こう側を見ている。

傭兵A「よし、包囲陣形に移動しよう…」

傭兵たちはグリーンドラゴンに気付かれずに包囲しようと考えていた。


だが、突然グリーンドラゴンはくるりと首を回し、こちらを見た。

傭兵B「やばい!」

傭兵C「散開しろ!」

ドラゴンの攻撃と言えば、初手はドラゴンの息ブレスと相場が決まっている。


ドラゴンブレスの種類はドラゴンの種類に応じて様々だが、グリーンドラゴンの吐くブレスは、毒の霧。

グリーンドラゴンは毒の霧を口から吐き出した。

緑色の煙が広がり、アーキルたち全員を包み込む。

傭兵A「ぎゃあー!!」

傭兵B「か、顔が痛い…!」

傭兵C「目が、目が…!」

傭兵D「ごほっ、ごほっ! の、喉が…!」

傭兵たちの肌に毒の霧が触れると、酸が触れたかのように皮膚がただれる。目に入ったり吸い込んだりすると、一瞬で行動不能に陥る。


アーキルは両手剣グレートソードを盾のように顔の前に掲げて、毒の霧の直撃を避けた。

さらに目と口も閉じて呼吸を止め、そのまま前に突進して毒霧の範囲を抜ける。

多少肌が毒霧に触れて痛むが、魔液を飲んだ時の苦しみに比べれば、全然平気だ。


ひゅっ!

頭上で何かが動く音を感知したアーキルは、慌てて地面に転がった。アーキルは目を閉じていたので分からなかったが、ドラゴンが振るった腕がアーキルの上をかすめた。


目を開けて体勢を立て直す。

アーキル以外の傭兵たちは全員、毒の霧によって戦闘不能になっていた。

アーキル「お前ら…。ありがとよ、一対一タイマンのお膳立てをしてくれて!」


アーキルは両手剣をグリーンドラゴンの足に叩き込んだ。

グリーンドラゴンの鱗はそれなりに硬かったが、アーキルの剣はそれを引き裂いている。


アーキル「よっしゃ、いけるぜ!」

自身の筋力を強化する魔法も使って、グリーンドラゴンの腕の殴り攻撃を剣で受け止めながら、アーキルは勝てると確信した。


グリーンドラゴンの横薙ぎに振るわれる尻尾攻撃テイルアタックはアーキルを吹き飛ばす威力なので、それだけは注意して避けながら、アーキルはグリーンドラゴンにダメージを与えていった。

そしてついに、グリーンドラゴンの片足は体重を支えきれなくなり、グリーンドラゴンはどうっと地に倒れた。


しかしまだ死んだわけではない。

グリーンドラゴンは首だけもたげて、アーキルの方を向いた。

アーキル「くらわねえよ!」

ブレスが来ることを察知したアーキルは、倒れたグリーンドラゴンの腕の上にジャンプして上がり、さらに剣を突き刺して反動をつけ、胴体の上まで登って毒の霧を回避した。


アーキル「これで!終わりだ!!」

アーキルはグリーンドラゴンの首の付け根に両手剣を思いっきり突き刺した。

さしものグリーンドラゴンも、それがとどめとなった。


アーキル「うおおおお!!」

アーキルは勝利の雄叫びを上げた。


その頃には、ようやく傭兵たちも自然回復してきた。

アーキル「どうだ、見たかお前ら! これでオレもドラゴンスレイヤーだぜ!」

傭兵A「まじかよ…」

傭兵B「やりやがった…」

傭兵C「たった一人で…」

傭兵D「信じられねえ…」


・・・


しばらく経つと、グリーンドラゴンの身体も魔液に変わる。

アーキルの身体に降りかかったグリーンドラゴンの返り血も、魔液に変わった。それが肌に触れたせいでアーキルは火傷を負って悲鳴を上げることになったのだが、それは余談である。

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