火トカゲ

クラスタリアでは、15歳で成人と見なされる。成人とは、自分の食い扶持を自分で稼ぐという意味だ。

そのため、戦いを生業とする傭兵や冒険者を目指すサラム人の子供は、成人を前にして、修行の場をサラマンディード地方北部の火山地帯に移す。

普通は14才で火山地帯へ行くのだが、ひとまわり体格の大きいアーキルは、12才で火山地帯の修行に参加することになった。周りはアーキルより年上の先輩ばかりだ。


火山地帯で主に相手となるのは、火トカゲサラマンダーだ。

体長は2メートルほどで、大人のサラム人と同じくらいだ。砂トカゲは動物だが火トカゲは魔物で、口から火の玉を吐く。

最初は火トカゲ1匹を数人で相手する。慣れてくれば徐々に人数を減らしてゆき、最終的に1人で倒せるようになれば一人前だ。


・・・


アーキルは先輩たちと共に火トカゲを包囲していた。


先輩A「こらアーキル、また遅れてるぞ!」

アーキル「わかってるって!」

アーキルは両手剣グレートソードを火トカゲに振り下ろすが、簡単に避けられてしまう。

両手剣は最も威力の高い剣だが、その分大きい。今のアーキルにとっては少々重くて、どうしても剣を振るのが遅れてしまうのだ。


先輩B「火の玉だ、気を付けろ!」

火トカゲはアーキルに向かって火の玉を吐いた。

盾を持たない戦い方の場合は、盾の代わりに剣で火の玉を受けるよう教わっている。

しかし両手剣をまだ自在に操ることが出来ないアーキルは、つい腕で受けてしまう。

アーキル「あちちっ!」


苦戦しながらも、どうにか火トカゲを倒すことは出来た。


同行している指導役の大人が、アーキルに回復魔法をかけて治療しつつ注意する。

指導役「砂トカゲとは違うんだ、ブレスを腕で受けるな」

アーキル「ちっ、わかってるよ! …それにしても、回復魔法はすごいな…」

指導役「確かにな。だが使える回数は少ないから、あまり当てにするなよ」


魔法は、個人の資質によって使えるものが違う。

サラム人の場合、筋力を強化する魔法が使える者が多いが、回復魔法を使える者は珍しい。

回復魔法を使えるサラム人は、火山地帯での指導役として重宝されていた。

とはいえ、サラム人の魔力は低い。サラム人が魔法を使える回数は、どうしても少なめだ。


・・・


伸び盛りのアーキルは、1年も経たない内に1人で火トカゲを倒せるようになっていた。

筋力を強化する魔法も使えるようになった。

両手剣の扱いにも慣れて、筋力強化の魔法と併せて、剣を振り遅れるようなことも無くなった。


アーキル「もう火トカゲなんざ、目をつぶってても倒せるぜ」

アーキルは調子に乗って豪語してみせた。


先輩A「そんなこと言うなら、やってみろや」

アーキル「おう、やってやらあ!」

先輩B「おい、危険だぞ、本当にやるなよ」

売り言葉に買い言葉。


アーキルは本当に目隠しをして、火トカゲに1人で対峙した。

足音で火トカゲの位置を類推し、剣を振る。

火の玉は避けられずに何度も当たってしまうし、剣も何度も空振りしたものの、一撃の威力が大きいアーキルは、目隠ししたまま火トカゲを倒してしまった。

先輩A「まじか…」

先輩B「すげえな…」


指導役の大人からは、無謀なことをするなと、こっぴどく叱られたが。

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