砂トカゲ

サラム人の子供たちの遊びの定番といえば、チャンバラごっこだ。


なにせサラム人の親は、たいてい元傭兵や元冒険者、すなわち戦うのが仕事だ。彼らも子供の頃はチャンバラごっこで遊んでいたのだから、子供にヒノキの棒を与えるのはごく自然なことだった。

砂漠ではもちろんヒノキの棒は手に入らない。しかしサラマンディード地方の東隣りはエルフィード地方。エルフィード地方は森林地方とも呼ばれ、木は豊富だ。旅から帰るサラム人にとっては、ヒノキの棒の入手は難しいことではない。


そうしてもう少し成長した子供たちは、オアシスで狩りをするようになる。狙う獲物は砂トカゲだ。

砂漠に生きる動物は少ない。砂トカゲはサラム人にとって貴重なタンパク源だ。

砂トカゲはオアシスの水を求めてやってくる。

砂トカゲの大きさは1メートルほど。サラム人の子供の身長と同じくらいだ。子供にとってはなかなかの脅威だが、砂トカゲは臆病な動物なので、あちらから襲ってくることは無い。


子供A「アーキル、砂トカゲがいた!」

アーキル「ほんとか? よし、みんな隠れろ!」


アーキルは同年代の子供たちの中でもひとまわり大きな体格だったので、ガキ大将の地位に就いていた。

アーキルの号令に従い、子供たちは岩の陰に隠れる。


アーキルは子供たち全員が隠れたのを確認すると、砂トカゲに向かって石を投げた。石は放物線を描いて砂トカゲの頭上を飛び越し、向こう側に落ちた。

子供B「さすがアーキル、ばっちりだね!」

石は地面に落ちて、ごとんっという音を立てた。

砂トカゲはその音に驚き、慌てて逃げ始めた。音がしたのとは反対側へ、すなわちアーキル達がいる方へ。


砂トカゲが充分近付いたタイミングを見計らって、アーキルは砂トカゲの前に躍り出た。砂トカゲは驚いて停止した。じっとアーキルの出方を窺う。

その隙に他の子供たちが砂トカゲを包囲して、逃げ道を塞ぐ。


子供C「とりゃあ!!」

砂トカゲの背後に陣取った子供がヒノキの棒を振るって砂トカゲを殴ろうとする。

砂トカゲは素早く避ける。

しかし避けたところを別の子供が狙う。乱戦が始まった。


砂トカゲは子供たちからすれば、なかなかタフな相手だ。ヒノキの棒で何回も叩いてもなかなか倒せない。

子供A「ふう、ふう…」

子供B「アーキル、そろそろいいんじゃない…?」

子供C「とどめを…」


子供たちは息が上がり始めた。

アーキル「お前たち、情けないぞ! まぁいいや、ようやくオレさまの出番というわけだな!」


アーキルは他の子供たちに比べて力が強いので、大人たちから、他の子供の鍛錬のため、アーキルが戦うのは控えるよう言われていたのだ。

アーキルは砂トカゲの前に進み出た。


砂トカゲはアーキルの顔をじっと見上げる。

砂トカゲの口がもごりと動いた。

アーキル「!!」


アーキルはとっさに自分の顔を腕で隠した。

その直後、アーキルの腕に砂が勢いよく当たる。

砂トカゲは口の中に砂を溜めていて、いざというときにそれを勢いよく吐き出して敵に当てるのだ。いわばドラゴンのブレスと似たようなものだが、しかしそこまでの威力は無い。せいぜい目潰しになる程度だ。しかし砂トカゲにとっては、逃げる隙さえ作れればいいのだ。


アーキル「その手はくらわねえぜ!」

アーキルはもう何度も砂トカゲと戦っていたので、その手口は百も承知。難なく対処した。


アーキル「おおりゃああ!!」

アーキルは砂トカゲの脳天にヒノキの棒を振り下ろした。

砂トカゲは一撃で倒れたのだった。

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