第2話アメリカ ニューヨーク
「あぁっ、くそ!」
がんっと机を蹴り上げると、上に乗っていたビールの瓶がガタガタ音を立てた。手に持っているのが何本目だったのかとうに忘れた。デュークはビールを飲み干すと、瓶を乱暴に置いた。時計を見ればもう日付を超えそうだ。一体何時間PCの前に座っているのか。企画書は真っ白のままだった。
お昼のローカルニュース番組の五分間の特集。もともと明日オープンするマカロンのお店を取材する予定だった。それなのに、なんと開店前日の今日に火事が起きて、夜のニュースに取り上げられてしまった。しかもオープンは来月に伸びる始末。せめてお店の商品だけでも紹介できないかと思ったが、それなら来月に火事から復活したマカロン店として取材したほうが面白いだろうと、企画自体を来月に回されてしまったのだ。
そしてディレクターのデュークには、新しい企画を明日の朝までに考えておけ、という無茶振りがやってきたのだった。
ユーチューブで今話題の動画をあさり、ツイッターとインスタでひたすら流行りのキーワードを探しても、良いアイディアは出てこない。
「この子がせめてニューヨークに居てくれりゃ、取材もできたんだがなあ」
気になったものもあった。中国のアーティストで、木彫りの招き猫を作っている若い女の子。本来、招き猫は商売繁盛を招くものだが、彼女の木彫りの招き猫は恋愛成就を祈ってか、ハートをモチーフにして作られているらしい。だが、それを今日のお昼のローカルニュース5分間で紹介するにはいくらなんでも情報が足りない。ネットの情報を垂れ流すなんて、一体何が面白い? せめて本人にインタビューできればいいが、向こうは中国だ。予算と時間のある時ならぜひお願いしたいが、今回はボツだった。
デュークはため息を付いて、穴の空いた5分間を考えた。やっぱりどっかの新しいカフェの取材で埋めるしかない。ここはニューヨークの、マンハッタンだ。どこかに一軒くらい、今週開店したばかりのお店があるだろう。それを明日の朝までに調べれば――なんとかなるかもしれない。
「最悪はそれだが……」
本当にそれで進めるべきか、踏ん切りがつかない。ここのところ、視聴率が徐々に落ちてきている。お茶を濁すようなものばかりじゃ、意味が無いのだ。たった5分でも油断できない。マンハッタンの人々は流行に敏感だ。
もし飽きられてこのまま視聴率が下がっていけば、自分はクビになるかもしれない。
今日一体何本目になるのか、猫と犬が仲良くじゃれ合っている動画を消して、デュークは手で顔を覆った。
「はぁー、猫動画はもういいんだよ……招き猫だったらなあ」
そうは言っていられない。時間がないのだ。
もう一本ビールを飲んで、オープンする店を探そう。デュークは冷蔵庫へ行こうと立ち上がった。
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