バタフライエフェクトという名の。
朋峰
第1話日本 東京
休み時間にざわつく教室は、いつもうるさい。弁当の匂いが立ち込める中、西村茉利は自分の菓子パンをかじっていた。
「ね、茉利。これ見て」
友達にスマホを向けられて、顔を上げた。目の前に見えるのはインスタだった。そこには木彫りでできた招き猫が写っている。よく見れば、招き猫の肉球は、ハートの形をしている。
「何これ」
「中国のアーティストなんだって。招き猫を主に作っててさ。可愛くない? インスタで見つけちゃった」
「ふーん」
「あれ。茉利って猫好きじゃん。この作品、結構好きかと思ったんだけどな。あたし、最近この人に注目しててさ」
美術部の友達がそう言うので、茉利は食べ終わった菓子パンの袋をぐしゃぐしゃにしながら、
「猫は好きだけど、それ招き猫じゃん」
「えー、何が違うのよ?」
「いや、違うでしょ」
不満気な友達にそう言いつつ、茉利は一応彼女のスマホを覗き込みながら、
「それで、なんてアカウント?」
「@LuckyCat88888っていうんだけど」
「長いアカウントねー。悪いけど私、インスタ全然やってないわ」
「ああ、ツイッター派だっけ。ツイッターもあるわよ、この人の。同じアカウント名で」
「ふーん」
自分のスマホでツイッターを立ち上げ、アカウントを検索した。
「あ、この人?」
プロフィール写真が、インスタと同じだ。友達に確認を取ると、彼女は頷いた。
「そうそう」
「じゃ、こっちフォローしとくわ」
ツイッターのアカウントをフォローし終わると、あることを思い出す。
「そういえば、うちの教室にも招き猫あったよね」
「え? ああ、あれ」
友達が指差した方を向くと、掃除用具が入っているロッカーの上に、ホコリまみれになった招き猫がいた。左手を上げているのがまるで助けを求めているようだ。確か、新学期が始まる前に担任が持ってきたのだ。最初は教室の後ろに飾られていたのに、あんなところまで追いやられてしまっていた。
「めっちゃ汚い」
茉利は呆れて笑った。なんだか可哀想に思えてきて、ちょっと拭いてやろうと立ち上がった。
「えー、何すんの?」
「なんか可愛そうじゃん。ちょっとホコリくらい取ってあげようかなって。それにあのまんまだとバチ当たりそうじゃん?」
「茉利って真面目だよね」
「いや、普通でしょ」
自分より高いロッカーを見上げるが、手を伸ばせば何とか届きそうだった。招き猫の足元らへんに指を這わせて自分の方に少しずつ引き寄せる。
その時、茉利にぶつかってきた人がいた。押されて手がすべる。招き猫がぐらついて、そのまま茉利の横へと落ちてきた。
「あっ!」
陶器で出来ているのだ。この高さから落としたら割れる――茉利は思わず招き猫へ手を伸ばした。
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