第116話 一撃②
一撃②
河本さんの解放が分かったことで、私たちは1部屋目のここならいくらでもやり直しがきくことが分かった。
だからといってこの的を貫通させることができるとは限らない。結局、的にはじかれて終わりだ。これが河本さんなりの優しさなのか何なのか。でも、このことは『いつまでも終わらない』ってことを暗示しているようで少し怖い。
「賢斗が私を助けたとき、どうやってたっけな?」
賢斗はグラン・カズーレから私を助けたとき、船のあの分厚い壁を破ったらしい。もちろん電磁銃をつかってだったが、それでもあの壁を破るには更なる何かが必要だったに違いない。だから、あそこに必ずヒントがある。
目を閉じて思い出してみる。うっすらとした意識の中、そこに見えるのは賢斗ともう1人。ZEROの関係者ではない、私も知らない誰かだ。フードを被っているから顔は見えない。それでも分かる圧倒的強者のオーラは、見る人を圧倒させる。そして、賢斗はその人に支えられて、銃を構えている。悔しいことに私が教えた撃ち方よりももっと綺麗な撃ち方だ。
(私にはあんな撃ち方、出来ない。)
目を閉じたまま、記憶の中の賢斗と同じように銃を構える。照準がどうのこうのの、問題ではなく、ただ力がそのまま伝わるような形だ。でも、このままキープするのは少ししんどい。そして撃った。いや、撃った気がした。
弾は的を貫通し、そして壁に当たって止まっている。その事実だけが私が撃った証だ。
「撃った…よね?」
撃った感覚のない私は、そのまま銃を下ろし、目の前の的を確認する。的には穴が空き、弾丸が1つ通り抜けたようなかんじだ。
「ねぇねぇ、どうやって撃ったの?」
私にも分からないけど、あの記憶の通りにやったらすぐできた。だから、私がどうやったかなんて私自身も覚えていないのだ。
ただ、手のひらに残っているのは銃自体の重さや感覚が全部なくなった感覚。まさに三葉たちから聞いていた昇華の感覚だ。この感覚をさらに上げると解放になるらしい。まだその域二たどり着いたのは私の周りには父さんしか知らないんだが。
もう一度と思って私は銃を構える。が、さっきまで残っていた感覚はもうなかった。銃を持ってる感じがどうしてもある。目を閉じて何度あのイメージをしても無理だ。
「くそっ。せっかく近づけたのに。」
一度穴の空いた的に何回も撃ち続ける。けど、結果は変わらず弾かれるだけだ。
結局この日は私の銃弾は、あの1発以外1度も通らなかった。
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