第112話 正しさ⑥

 御影さんは、歴戦の武器、ガラを取り出した。


「本当は訓練で使う気はありませんでしたが、私が今度は危なそうなので使いましょう。」


その鉈は青と緑の輝きに包まれ、周りの空気を燃やし始めた。


「これが私の解放です。名前を閻火。この火自身に痛みや熱さはありませんが、その代わり、燃え移ったものを跡形もなく焼き去ります。」


さっきまで使っていた竹刀を閻火に近づけると、すぐに緑の火に包まれそして塵も残らず消えていく。


「くれぐれも、死なないでくださいね。」


目の前に立ちはだかる圧倒的な強さに心が折れそうになるが、そんなのは関係ない。今はただ、この人に勝たないといけないのだ。


「それでは、行きますよ。」


俺は呼吸を整える。


 音もなく、御影さんは俺の目の前に立っていた。


「『亜閻』!」


振られた刃は業火を纏い、俺に向かってくる。それを俺は止めるしかない。


「くそっ」


後ろに飛ばされてそのまま尻もちをつく。すぐに立ち上がったが、目の前の鬼神はまっすぐ俺の方を見ていた。


「少しは解放に近づいたと思ったんですが、この程度ですか。」


やれやれと首を傾げて纏った炎を消す御影さん。もう終わりなのか。


 その様子を見たときに、心のどこかで安心してしまっている自分がいることに気づいた。何を安心している?強くなるために名乗り出たのに、自分の命が危険になったからって、そんなの…あのときと一緒じゃないか。


「待ってくださいよ。それはないでしょう。」


こんなところで終わられてたまるかよ。こんなところで諦めてたまるかよ。


「俺は強くならないといけないんだ。俺はこの訓練で掴まないといけないんだ。」


もう外野にされるのは終わりだ。俺だって2番隊の1人。そして、万能一家、針生家の1人なんだ。


 身体が熱い。でも、視界ははっきりとしている。むしろ研ぎ澄まされている。周りの動きが全てゆっくりに見える。


 右手に握った閃青刀の感覚が少しだけ変わった気がする。なくなったじゃなくて浮いてるって感じ。


「そうか、ならやるしかないな。」


御影さんは再び刀身を青く燃やす。その目に映った自分の刀を見て、解放していることに気がついた。


「これが、解放ですか。」

「そうだ。お前は1度できたから、この感覚はもう忘れない。自然と出るようになる。」


御影さんは鉈を構える。俺もいつものように構えた。


「行くぞ。」

「はい!」


再び、瞬きする間に御影さんは俺の前に来た。けど、今回は、


(見えている。)


俺は合わせて刀を振った。

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