第111話 正しさ⑤

正しさ⑤

 俺はあの日何をしていたのだろうか。なんのために刀を持っていたのだろうか。青が俺にこの刀を託してくれた理由は?


 何度も自問自答を繰り返し、少しずつ答えが1つにまとまってきた。青はあの戦いの中で俺の中の罪悪感に気づいたんだろう。だからあの刀を託してくれた。


 そのことに分かった瞬間に竹刀の感覚がなくなった。いや、感覚が尖ったのか。そこんとこは経験したことがないから分からないが、少なくともいつもよりは動けるような気がする。


 集中すると周りの音が全部消えた。刀身の長さとかそんなのは気にならない。息を大きく吐くと水の流れるような音がした。


(なんだこれ?)


見れば刀身が青く光っている。竹刀でも刀身が光るのか。それは知らなかったな。


「ついに成ったか。それが昇華だ。」


御影さんはそう言って竹刀を構える。みるみるうちに、青と緑の輝きを帯び始め、重たい空気が漂い始めた。


 俺の昇華はこれなのか。水のように流れる刀。見境なく全てを切るなんてことはなく、思い通りに刀が進んでいく。


「そのままの感覚でやれよ。」

「はい。」


すぅーっと息を吐き、構える。目の前の景色が鮮明に写っているのはきっと昇華したからだろう。本当に色々な恩恵があるんだなと思う。


 水蓮で踏み出すと波紋が広がるように足跡がつく。


「『白波』!」


振った竹刀の周りには白い波のような模様がつき、それが全て斬撃に変わっている。それを御影さんは軽々と受け止めた。


「いいね。面白い。」


御影さんは俺の刀を押し返し、そしてもう一度防御体勢をとる。


「そっちからは攻撃してこないんですか?」

「そうだな。今はしない。とにかくお前の昇華が確かなものになるまではしないさ。」

「じゃあ今はこちらから好きなだけ。」


俺はまた水蓮で近づいて今度は御影さんの竹刀に当てるように刀を置いた。


「『波動ヴィレ』」


その瞬間、御影さんの竹刀は砕け、ボロボロの欠片が落ちてくる。もしかしたらできるかと思った技も、まさかできるとは。


「衝撃波か。水を利用したいい技だ。だが、発動までの時間が少し遅いな。もっと早くできないか?」

「やってみます。」


御影さんはまた新しい竹刀に持ち替え、俺の攻撃を待つ。


「『波動』!」


もう一度、今度は少し早く発動するように刀を振る。すると、さっきのような時間差ではなく、当たった瞬間に竹刀が砕けた。


「あと、0.1秒早く!」

「はい!」


御影さんが持ち替えては打ち込み、さらに早さを求めて20回ほど。


「これで最後だと思ってこい。」

「はい!波動!」


竹刀を振ると、触れる前に竹刀が砕け始める。


「そう、それだ!それを私は待っていた!」

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