第8話 新しい家

 車で15分。駅からそう遠くない距離の住宅街の中で車が停まった。


「潜さん、着いたみたい。」

「ん?あぁ、ありがと。」


寝ていた潜さんを起こして、車から出る。目の前にあったのは何の変哲もない一軒家。ではない。でっかい家だ。


「ここはZEROの寮みたいなもんだ。お前らみたいなやつが他に2人いる。同学年だから仲良くしろよ。」

「いやいや、コミュ障の俺には無理だって。」

「私も初対面の人なんか…」


俺たちは玄関から離れるように後ずさりする。すると、誰かに当たった。


「すみません。」

「いえいえって見たことない顔だな。どこの人?ん?ってかあそこに居るのって百野さんだよな?知り合いか?」

「あーっとその、僕の父です。」

「ってことはお前、百野賢斗か!!んじゃその隣は会長の娘。」

「あっ、はい。」

「入れ入れ!お前らを待ってたぞ!」


俺と同じくらいの歳の少年は、俺たちの手を引いて玄関に向かう。いつの間にか父さんが俺たちの荷物を全部出していた。


「荷物は全部出しといたぞ。あとはお前らで運び入れろ。じゃあ帰る。」

「帰るなぁァァァ!」

「待ってくださーーーい!」


こうして俺たちは新しい家に連れてこられた。


 少年が玄関のドアを開けると、そこには普通の家があった。特に高級感も何も無い普通の玄関の先には廊下があって、茶色いドアがいくつもある。どうせ風呂場とかそんな感じだろう。そして扉が一番奥にあった。


「歓迎会の前にこれを運び入れないとな。やるか。」


少年は当たり前のように段ボールを2つ持って、玄関近くの階段を上っていく。それについて行くように、俺と潜さんも2階に上がった。


 2階には部屋が4つあったそのうちの奥2つは使っているのか、扉が開いている。手前の2つは使われていないようだ。


「どっちか好きな方選んでくれ。どっちも殺風景な部屋だがな。」


少年は笑いながら言う。まぁ寮みたいなところなんてそんなものだろう。後でレイアウトを考えたらどうにかなる。


「潜さん、どっちがいい?」

「私は左。」

「じゃあ俺が右ね。」


それぞれが選んだ部屋に荷物を運び入れる。部屋はまぁ、普通の広さ。ベッドがあって、本とか机とか置けるスペースもしっかりある。そこまで荷物の多くない俺にとっては広すぎるくらいかもしれない。


 ためしに備え付けのベッドに寝転んでみる。一目見たときからいいやつだと分かっていたが、その想像を遥かに超えるほどの寝心地だ。


 目を開けると知らない天井が広がっている。ここが新しい家なんだと改めて認識した。

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