第7話 訪問

 車で10分ほど進んだくらいの住宅街の中の普通の一軒家の前で、父さんは車を停めた。


「覚えとけ、ここが潜家だ。」


うちの家みたいに、ZEROは基本的に普通の一軒家が多い。それは潜家もそうで、特に何も特徴のない一軒家だ。


「お前もついてこい。一応会っとけ。」


こんな感じでお宅訪問とか、まだ心の準備も整ってないぞ。


 なんて思っているうちに父さんはインターホンを押していた。すぐに低い『はーい』って声が聞こえる。「俺だ」と父さんが言うと『今開ける』と返事が返ってきた。


 程なくして1人の男の人が出てきた。こんなこと言ったら失礼なんだろうが、普通の人だ。


「よう、透!まだ生きてたか!」

「俺がお前の上司だってこと忘れてるよな。」

「いいじゃないか。昔からの仲なんだしよ。会長さん。」


2人は、いや、父さんは肩を組んでゲラゲラと笑っている。そういや今『会長』って言ってたよな。会長ってことはつまり…


「ZEROのトップ?」

「おおよく分かったな。」

「お前が言ったんだよ。そうだ。俺がZEROの会長で百花の父親の潜透だ。よろしく頼む。」

「よろしくお願いします。」

「見た感じあれだな。運動神経は普通。だけど頭の良さが、いや、記憶力、判断力が素晴らしい。だから百野家主導の任務では君が指揮していたのか。」


そう言われた瞬間ゾッとした。当たっているのだ。俺はこの人のことを知らない。会ったはずもない。俺の記憶がそれを否定しているのだから。じゃあ何でこの人が俺の事を知っているみたいに言う?


 結論はすぐに出た。見透かされているのだ。


「力の子供と聞いてどんな筋肉バカかと思ったが、これなら安心して送り出せそうだな。」


そう言うと透さんは笑った。


「百花、終わったか?」

「うん、今から持って降りる!」


そんな声と共に2階のどこかの部屋の窓が開く音がした。こんな俺でも、美海程では無いが耳がいいのだ。


「よいしょっ!さすがに多かったかな?」


そんな声と共に誰かが落ちてくる気配がした。慌てて外を見るとそこに居たのは潜さんだ。


「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。これくらい日常茶飯事だから。」


そんなことを笑って言っている潜さんの両手には段ボールが2つずつ。俺は奪うようにそのうちの上に乗っている2つを取った。


「別にいいのに。」

「さすがにそんなに抱えられてたらね。父さん、トランク開けて。」

「はいよ。」


段ボール8箱ぶんとなったら結構パンパンだが、それでも何とか積み込む。車は後ろの方だけ下がっている感じになった。


 そしてそんな光景を透さんは微笑んで見ていた。


「2人なら何とかやっていけそうだな。」

「まあ、元々知り合いだったからできることもありますよ。これが初対面だったら緊張して何も出来ないでしょうね。」


出来るだけ笑ってそうやって答える。いつの間にか緊張もなくなっていて、普通に喋れるようになってきた。


「2人とも早く乗れ。作業で近所迷惑なるぞ。」

「分かった。じゃあ透さん。また来ます。」

「お父さん、たまに帰ってきます。」

「おう、死ぬなよ。」


そうやって別れを告げて、潜さんと一緒に後部座席に乗った。

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