第5話 職業上

 『ZERO』。俺たちが所属する組織の名前だ。その任務は『未発生の事件を事前に内密に解決する』というもの。まとめて言うとそんな感じだが、基本的に巡ってくるのは組織ぐるみの犯行ばっかで、結局は強行策に出たりすることがほとんどだ。


「百花ちゃんのところは潜入、強行のプロなんだ。」

「百野さんのところは変人だらけって有名ですけどね。」

「人聞きの悪い。うちの家はどこかに全振りしている人が多いだけだよ。」


2人はそんな話をして笑い合う。


 それにしてもここに潜さんを連れてきた理由ってなんだろ?無理矢理ってわけでも無さそうだし。


「そうだそうだ。ちゃんと紹介を忘れていたな。この人は潜百花。今日からお前、百野賢斗のバディ兼許嫁だ。」


潜さんがバディ。知らない人と組まないといけないよりはマシか。一から色々築き上げるのもしんどいし、どうせボロを見せるに決まっている。それに比べて知り合いと組むってことは、ある程度知った仲だからそんな心配はない。もうほぼ見せているんだから。えと、それと、何て言った?


「「許嫁!!?」」

「あぁ、許嫁だ。正確に言うと政略結婚みたいなもんだな。百花ちゃんのお父さんとは昔からの飲み仲間でな、その時にお互いの子供を結婚させようって話してたんだ。」

「そんなの俺たち知らねぇぞ。」

「そうですよ!私もお父さんから聞いていません!」

「あぁ、言っていないからな。」


父さんはまともなことを言っているようにそう言う。今頃許嫁とかそんな制度あるのか疑問だが、父さんならやりかねない。そんな人だから。


「ってことで、とりあえず2人だけ別の家で生活してもらうことになるな。」

「そんなの、いきなり言われても。」


『ZERO』のルール。その1つが『バディは共同生活をしなければならない』というものだ。だから父さんと母さんはバディだし、美海と俺は元々バディだった。というか俺と美海はバディ解消ってことになるな。


「美海もお前も裏方ばっかりしているだろ。だから少しは表で働いてもらわないと生きていけないからな。あと美海のバディは工作になったから。聞こえてるなら返事しろ〜!」


ドンドンと上の階から音が聞こえてくる。聞こえていたみたいだ。


「ってことは、俺が表で働くために、父さんはその許嫁にするとか何とかの話を使ったってことか?」

「そういうことだ。」


頭が追いつかない。実際裏方と表では天と地ほどの収入の差があるが、任務によってはそうではない。だから俺はこれでいいと思っていた。


「お前にはしっかりして欲しいんだ。だから表も裏も両方知って欲しい。もちろん潜家、百野家でお前たちのサポートはする。」


要するに変われってことらしい。サポートがあるなら生活面では心配はないだろう。それに、潜さんなら何でも出来そうだし。それでも潜はいいのだろうか。ただの知り合いだった男と同居なんて。なんて考えがよぎった瞬間だった。


「分かりました。じゃあ荷物をまとめてきます。」

「えっ?潜さん?」

「私はいいですよ。教室での振る舞いから悪い人では無いことが分かっているので。今もしっかり悩んでくれてたみたいですし。」

「そうか。ならあとは賢斗だけだな。どうする。」


ここまで来たらさすがに引けそうにないな。


「荷物まとめてくる。」


父さんのニヤリと笑った顔が少しムカつくが、俺は2階の自分の部屋に上がった。

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