第8話「Akua-アクア-」

「次は、お前だ。バーンズ! アメリアを放せ!!」

 アクアはじりじりと距離をつめていき、バーンズに近づいていく。

「ああっ、伝説の魔水士様~! 私には、妻と愛人と六人の子供がおります。私にお慈悲を~!!」



 バーンズは、涙を流して命乞いしてきた。

 アクアは呆れたが、少し哀れに思い慈悲をかけた。

「分かった……アメリアを放して、この町から出ていけ。そうしたら許してやる」

 アメリアは、縛られていたロープを切られ、放されたかに見えた。



 が、バーンズは、アメリアの首にナイフをあてて人質にとった。


「うはははは! 馬鹿め!!! 形勢逆転だな」

「アクアさん。どうか、あたしごと!」



 アメリアは、恐怖で震えていたが気丈にも、アクアのために自分が犠牲になることを望んでいた。

「黙れ! 小娘。若造! こいつを殺されたくなかったら……」



 アメリアは、バーンズにナイフでさこつがある場所を少し切られた。血がしたたり落ちる。

 過去に妹を一人の男に殺された場面が、フラッシュバックしてアメリアと重なる。

 それを見たアクアは、カッと頭に血がのぼった。



 その瞬間、アクアは疾風のごとく走り抜け、アメリアを取り戻すとちゅうちょなく、バーンズの胸をアクア・ブレードで切り裂いた。


「ぎゃあー! 切られた。人殺しィ~!!」

 バーンズは情けない声を出して、はいつくばって逃げようとした。



 だが、アクアの様子がおかしい。正気を失ったアクアは、バーンズに刃を振り下ろしてとどめを刺そうとしていた。

 その時、アメリアの声が響いた。

「アクアさん! 殺しては駄目!!」



 その姿が優しかった妹と再び重なり、アクアは正気を取り戻した。

「悪党! アメリアに感謝しろよ。」

 アクアは水の剣で、バーンズの後ろで束ねている髪を切り落とした。

 バーンズは恐怖で失禁し、その場に倒れた。




 アクアは、町の自警団にバーンズ一派を引き渡し、裁いてもらうことになった。

 バーンズが伝説の魔水士に倒されたという事が知れ渡ると、バーンズの家族や関係者はアクアに恐れをなして、その日のうちに荷物も持たずに逃げ去った。

 町の人々は、喜んで一晩中それを祝った。



 ◇


 宿に帰ってきたアクアとアメリアは、遅い食事を取りながら話していた。

「ねえ、アクアさん。この町に残る気はない? あんたは、みんなに希望を与えてくれた。あたし、あんたが魔水士じゃなくても…」



 アメリアは頬を染めてもじもじと恥ずかしそうにしている。

「俺には、その資格はない」

 うつむくアクアにアメリアは、悲しげに見つめた。



 アクアは顔を上げ自嘲的に微笑を浮かべた。

「俺のような力を持った者は、伝説の中だけで十分だ。」

「そんなことないわ! あんたは私に……。いえ、この町のみんなに希望をくれたのよ。それだけは、分かって欲しいの。あんたがいれば、皆の心も昔のように戻るかもしれない。」

 アメリアは、涙をためてアクアを見つめる。



「分かったよ……。君の気もちは、ありがとう。でもな、俺にそんな力はないよ。バーンズはいなくなったが、一度変わった人間の心は、簡単には戻らない……」

 アクアは、アメリアの両肩をつかんで、目の奥を見て話しだした。



「でも、君はまだ変わっていける。ここからいくらでも、やり直せる。

 この町を変えていけるのは、よそ者の俺じゃなくこの町の人しかいない。

 この町にもう、戦いのための力はいらない……俺はまた、旅を続けるだけさ」と笑い。



 ◆


 この町に残って欲しいという、アメリアの願いもむなしく。

 アクアは、次の朝早くに旅立ってしまった。

 うまいメシをありがとう。元気でなという手紙を残して。



 アメリアはそれを見ながら涙を流した。

 手紙には、涙のあとが点々と残っていた。それはアクアのものだった。

 アメリアの涙が手紙に落ちて、アクアの涙のあとに重なった。

 アメリアは、涙のあとに愛しそうにキスを落とした。



 魔水士の戦いは、新しい伝説としてアクアの名をふせて再び、町で語り継がれることになった。


 アメリアがリーダーとなって町の人々と尽力したことにより、ウォーター・タウンは徐々に復興し、昔のように美しい街並みを取り戻したと町の歴史書には書き足された。



 今日も、どこかの空の下で魔水士アクア=ブレイドスは、妹のかたきを探しながら旅を続けている。




 続編へつづく


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 Akua-アクア-次回は、いよいよ新作の続編です。見切り発車なので亀更新でいきます!

 よろしくお願いします。

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