第2話「旅の青年と宿屋の少女」

 小さなさびれた宿屋が建っている。その建物は古そうだが、おもむきがありどこか、温かなたたずまいをしていた。

 良い香りが部屋までただよってくる。

 どうやら、先ほどの少女が炊事場で、料理をしているようだ。


 旅の青年は、奥の部屋のベッドに寝かされている。

 少女は、四角いトレイに料理を載せると青年のいる部屋まで持っていった。

 少女は二回ノックをすると、ドアを開けて部屋に入った。

 青年は起き上がり、窓から外を眺めていた。



「あら? 起きていたのね」


 少女が言うと青年は振り返りたずねた。

「君が助けてくれたのか?」

「ええ、あたしはアメリア! 宿屋をしてるの。お兄さんは見たところ、ここの人じゃないわね?」


 ふっと見ると青年は、綺麗な水色の瞳をしていた。珍しい黒髪と水色の目の組み合わせに思わず、アメリアは見入ってしまう。


「ああ、俺は旅人だ。名はアクア、アクア=ブレイドス」

「アクア=ブレイドス……」

「うう、腹減った……」アクアは目が回って、ベッドに倒れこんでしまった。

「ああ、そうだった! お腹空いてたのよね? これ良かったらどうぞ」



 アメリアは、野菜の切れ端の薄いスープと硬い黒パンを差し出した。

「こんな物しかないけれど……」と言おうとした瞬間、アクアの目はギラリと光った……ように見えた気がした。

「うお~! 五日ぶりのメシ!!」


 アクアはアメリアから、食事を受け取り物凄い勢いで食べ始めた。

「ふふ……どうやら、心配をする必要はなさそうね。」

 アメリアは、アクアの食事を見ながら安堵のため息をもらしてくすりと微笑む。

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