第50話 恋紋、突撃

「ほな、始めよか……」

 白銀の魔女は氷でできたバールのような物を手にニッコリと笑った。バールのような物とはニュースでよく見るアレだが、金属でできていないだけマシかもしれない。

 そして、彼女の頭上に浮かぶエアモニターの《17》の数字は何を意味するのか?


「行くでっ!」

〝ビシュンッ!〟

《16》

 キラキラと輝く氷の得物を振り回す魔女にためらいは無い。おれは黒い雪ダルマの体で走り逃げ出した。えっ、足はどこかって?


「恋紋突撃だーーっ!」

「恋紋ちゃん行けーーっ!」

《15》

「そりゃっっ!!」

〝ビュンッ! ビシュンッ!〟

 魔女、もとい死神がバールを振り回して襲いかかってくる。


『凛子さんっ、解説お願いしますっ』

『うむっ、あの数字は残りの魔力だっ』

《14》


「うりゃっーーーっ!」

〝ドガンッ!〟

《13》

 氷の凶器はかなり硬いのか、折れるどころか簡単に地面に穴が開いた。


《12》

「でやーーーーーーっ!!」

〝ドガガンッッ!


《11》

 俺は慣れない体で走り、いや転がり続け、振り下ろされる死神の鎌をなんとか避けて凌いだ。

 だが、魔女の生命力は1なのだ。要は簡単な魔法を一発でも当てれば俺の勝ちだ!


「(%0%(&#=っ!?」


「g)$&=&っ!?」


「&'#0)"&&#っ!?」

《10》

 なぜか呪文が唱えられない!


《9》

「待てーーーーっ!!!」

〝ガンッ! ドガッ! ドガンッ!〟


《8》

 魔法にかかった雪ダルマの状態では、逃げるしかないらしい。


《7》

〝ドガシュンッ!〟

「ヒョエッ!」

 バールが掠った。


《6》

「待てーーっ!」

 右に転がり、左に跳ねるっ。


《5》

「そこやっ!」

〝ズドンッッッ!〟

「ゲビョーーーンッッッ!」

 ついに直撃を喰らった!


《4》

 雪ダルマの体から黒い体液が飛び散る。いいのかこんなエフェクト子供に見せて!


《3》

「もう一発っ!」

〝ズドンッ!〟

「ギャピョエッ!」


《2》

「まだまだっ!」

〝ザシュッ!〟

「ピャオーーンッッ!」


《1》

「トドメやっ!」

〝ドバンッ!〟

「ゲビャララララララッッッッッ!!!」


《0》

〝ボボンッ!〟

 突然、雪ダルマの体から黒い煙が吹き出すと、俺の体はようやく魔王の姿に戻った。


「痛でーーーーーーーーっっっっ!!!」

「あかんっ! 魔力切れやっ」

『おーっと、ここでタイムアップですっ!』


「サナーティオッッ!!!」

 癒しの呪文を唱えると、体の痺れと痛みが消えた。


『凛子さんっ、ただ今魔王のステータスはどうなっているでしょうかっ』

『うーーーん……生命力は……まだ残り半分てところだなっ』

『あれだけの攻撃を受けてまだ半分ですか! 随分と固いですねー!』

 心はとっくに死んでますが!


「降参やーっ! 小夜ちゃんっ、あとは任せたで!」

『おおっと、ここで白銀の魔女が白旗を揚げましたっ』

『生命力が1しかないからな、正しい判断だっ』


 白銀の魔女はログオフすると、女子高生の姿に戻りプレイコートの外に出た。


「恋紋ちゃん、お疲れーっ」

「ほな後は頼んだでーっ」

「よーし小夜っ、行ってこいっ!」


『さあっ、いよいよ最後の闘いになりましたっ!』

「よーっし! 私も全力で行くぞーーーっ!」

 あれ? 召喚術師ってあんな雰囲気だっただろうか……。


 いや、N.P.C.に雰囲気というのもおかしな話だが、前はもっと自信なさげで……そういえば衣装もちょっと違うような気が……巫女装束に似ているが、上から下まで真っ白だ。


『さて凛子さん、はたして召喚術師一人だけで、魔王を倒せるでしょうか?』

『実はな、真鶴まなづる 小夜はすでに《白菊しらぎくの巫女》の称号を得ているんだ』

『白菊の! 巫女!』

『今日の団体戦なら、真鶴一人でも優勝していただろうっ』

〝ほおーーーーーっ!〟

〝すげーーーーーっ!〟


 召喚術師が三人目に出てきた理由は、一番強いからだった……。設定がバージョンアップしたらしい。


〝これは魔王やばいぞーーーっ!〟

〝押本くーんっ、逃げてーーーっ!〟

〝わはははーーーーっ!〟


〝ビシュンッ! バチッ!〟

 とげの付いたしなやかな赤い鞭が、くうを切り裂いてうなった。


《この鞭を使えば、自分よりレベルの高い魔物でも召喚できるぞ。ただし知能レベルに差がありすぎると、操るのは難しいからなっ》

 凛子が白菊の巫女に与えた副賞は、女王の鞭だった。


〝ドバチンッ!〟

「覚悟はいいよねっ!」

 いいわけないだろっ!

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