第51話 白菊の巫女
〝シュバンッ!〟
赤い鞭が空に大きな輪を描くと、白菊の巫女が伝家の宝刀を抜いた。
「
予想はしていたが、相手にしたくない魔物である。
〝ギャアアアアァアァアァァアアァァーーーーーンンンンンッ!〟
宙に浮いた赤い穴から世界を震わせる咆哮が聞こえた。
おそらくここにいる者は、誰も実物を見たことがないだろう。そう言う俺も、マジユニの開発中にデザイン絵でしか見たことがない。
〝ズズンッ!〟
ついに穴が裂け、ゾウよりも大きな赤い塊が飛び出すと地面を揺らした。
〝オオオーーーーーッ!〟
〝初めて見たーーーーっ!〟
「グルルルルルルーーーーッ!」
「すげーーーぞ小夜っ!」
「小夜ちゃんっ、いてまえーっ!」
白菊の巫女が鞭を振る。
〝ビシュッ! バチンッ!〟
「よーし行けっ! 魔王を倒せっ!」
「グルルルルルルッッッ」
「火炎放射だっっ!」
「グルルッ…………ふんっ、自分でやれ……」
赤いドラゴンは翼を大きく広げると、羽ばたいてどこかの空に飛んで行ってしまった。
『おーーっと、これはどうしたことでしょうっ?!』
『今のはレッドドラゴンだなっ。知能が高すぎて人間の言うことを聞かんのだっ』
『ちょっと計算違いでしたかっ』
『いや、白菊の巫女は分かっててドラゴンを召喚したんだ』
『と、言いますと?』
「転身!」
〝ズズンッ!〟
白菊の巫女が白いドラゴンの姿に変わった。
〝オオオォーーーーーーーーーッ!〟
〝スゲエエエーーーーーーーーーッ!〟
『白菊の巫女は、最後に召喚した生き物と同じ種族に成れるんだ』
『そーれはまたチート級のスキルですねっ』
「ギャアアアアアーーーーーーンッ!」
「行けーーーーっ! 小夜ーーーーーっ!!」
「小夜ちゃんっ! 火炎放射やっ!!」
「
『だが、魔王もまた魔物を呼べるからな』
真っ赤なドラゴンが遠い空の向こうから帰ってきた。
〝ズシンッ!〟
「お呼びでしょうか、魔王様」
「白菊の巫女を倒してくれ」
「
『さあっ、なんとおめでたいっ、紅白のドラゴン対決ですっ!』
「ギャオオオオオーーーーーーーーーッ!」
「ジャアアアアアーーーーーーーーーッ!」
プレイコートは二匹のドラゴンが吐く業火で焼かれ、ツノから放たれた荒れ狂う雷で八つ裂きにされた。
〝ドズンッ!〟
〝ズズンッ!〟
鋭い爪は両者を切り刻み、牙は身に深く刺さり、ついには長い尻尾で互いを打ち倒した。
〝ドドーーーーーーーンンンッッッッ!!!〟
『両者ノックダウン! 引き分けです!』
「小夜ーーーっ!」
「小夜ちゃんっ!」
「痛ったーいっ!」
白菊の巫女が女子高生の姿に戻った。
「それでは魔王様、我はこれにて失礼致します……」
「ご苦労様でしたっ!」
赤いドラゴンもまた姿を消した。
『そこまでっ! 勝者っ、魔王!』
〝ウオオーーーーーッッッッ!〟
〝ワアアアアーーーーーッッッッ!〟
〝パチパチパチパチッッッ!〟
これで、ようやく長かったマジユニ競技大会も閉会する。
はずだった。
『ねえママっ、凛子姉ちゃんと魔王ってどっちが強いの?』
幸太の一言がマイクに乗ると、会場が静まり返った。
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