第45話 決戦! 押本 V.S. エルフ

 プレイコートを囲む大勢のユーザーが、緑の魔王と凛々しいエルフの勇姿をスマホで映している。


「まどかーーっ、ファイトーーっ!」

「押本くーーんっ、気い抜いちゃダメよーーっ!」

「押本さぁ~~んっ、頑張ってくださぁ~~い!」

 海乃幸や薬屋の声援は嬉しいが、おそらく俺に賭けたに違いない。凛子にギルド長や他の連中は大園さんに乗ったようだ。


『両者前へっ。互いに礼っ!』

 優勝した大園さんはさすがと言おうか、小学六年生ながらにして背筋がまっすぐで、姿勢が綺麗だ。いつもモニターに向かって仕事をしていた俺の背骨は曲がっているかもしれない。


『構えてっ!』

 エルフの視線と重なる《太陽の弓》が神々しい。

 凛子の説明によると、陽の光と少しの魔力があればいくらでも矢を放つことができる魔法の弓だそうだ。

 方や、俺の手には矢印が付いたいつもの黒い鉄の棒があるのみである。やれやれだ……。


『始め!』

 谷口先生の号令がコートに響いた。

「覚悟っ!」

 いきなり弓を引いたエルフの前に、俺は魔力のシールドを張ってみた。


〝バッシャーーンッッ!!〟


 しかし、きらめく一閃があっけなく希望の壁を打ち砕いてしまった。かなり硬い魔法のはずだが、太陽の光でできた矢の前では豆腐で作られた盾のようだ。しかもこれは、一発でも当たると大ダメージを喰らったあげく絶対に痛いに違いない。


「うーーんどうすべ……」

 とりあえず、時間稼ぎにシールドをたくさん張ることにした。


〝バッシャーーンッッ!!〟

〝バッシャーーンッッ!!〟

〝バッシャーーンッッ!!〟

 豆腐じゃなくてトイレットペーパーだった。


〝バッシャーーンッッ!!〟

〝バッシャーーンッッ!!〟

〝バッシャーーンッッ!!〟

 光の矢を次々と放ちながら、エルフが走り距離を縮めてくる。分身魔法も必要もない。このままでは、いずれゼロ距離攻撃を受けてしまう。


〝バッシャーーンッッ!!〟

 残り10メートル。


〝バッシャーーンッッ!!〟

 残り5メートル。ここは一か八かだ。


〝バッシャーーンッッ!!〟

 残り3メートル。


〝バッシャーーンッッ!!〟

「トランセット!」

「きゃっ!!!」

 エルフは穴に落ちた。


「きゃーーーーーっ!!!」

 そして空から落下する。


「きゃーーーーーっ!!!」

「きゃーーーーーっ!!!」

「きゃーーーーーっ!!!」

 出口は地上から約5メートルの上空だ。


「きゃーーーーーっ!!!」

〝トランセット〟は二つの場所を繋げる魔法だ。目の前の地面に入り口を設置したら、見事にエルフは落ちてくれた。

「きゃーーーーーっ!!!」

「きゃーーーーーっ!!!」

 穴に落ちエルフはまた空に現れ、落下しては無限地獄を繰り返す。落下する速度はそれなりに速いので、弓で的を狙うどころではないだろう。まして空を飛べないエルフでは、落下し続けるしかないのだった。


「こうさーーーーーんっっっっっ!!!!! きゃああああああーーーーーっ!!!」

 何度目かの落下で、ようやく諦めてくれた。

『そこまで! 勝者押本!』

〝オオーーーーーッッッッ!〟

 風の魔法で落下する大園さんを受け止めると、地面にそっと降ろして試合は終わった。


『互いに礼っ!』

 それにしても、いつの間にこんな礼儀作法が取り入れられたのだろう。

『最後にもう一度、お二人に拍手をお願いします!』

〝ワーーーーーッッッッ!〟

〝パチパチパチパチッッッ!〟

 これでようやく1日目が終わった。観客のマジユニユーザーが喜んでくれたので、まずは良かったと言えるだろうか。


「押本君てば子供相手に無茶苦茶やるわねー」

 海乃幸が呆れた顔で立っている。

「言っとくけど、スカイダイビングの落下速度って、時速200kmになるらしいわよ」

「えっ、200km?」

「私なら気絶してるわ」

「押本っ、鬼畜だなっ!」

「で、でもほら、魔王が小学六年生の女の子相手に直接攻撃したら、何を言われるか分かりませんし……N.P.C.が相手なら全力でやりますけど……」

 かと言って、わざと負けたりしたらマジユニユーザーは納得しないだろう。


『明日は成人の部です。より実戦に近いパーティ形式による団体戦ですので、みなさん怪我をしないように頑張って下さい』

 谷口先生に確認はしなかったが、おそらく明日もエキシビションマッチはやるのだろう。たぶん、おそらく、間違いなくやらないとみんなが納得しない。

『本日はこれにて終了です。皆様、お気をつけてお帰りください』

「ところで、魔石の賭けは儲かりましたか?」

「内緒よっ」

「内緒だっ」

「でも戦ったのは俺なんだから、少しは魔石を分けてくれても……」


「見つけた」


 殺気のこもった声に振り向くと、セーラー服を着た三人の女の子が立っていた。

「明日は絶対優勝するからなっ! エキシビションで待ってろよ!」

 見覚えのある三人組は、ここがキャンプ場だった頃に雪の降る中で戦ったN.P.C.だった。たしか、剣士と魔法使いに、召喚術師の女子高生キャラクターだ。


「押本君、知り合い?」

「ええ、まあその……」

 やはり、N.P.C.キャンセラーには欠陥があるようだ。今日の試合は終了したので問題ないが、明日の成人の部に参加するため、わざわざ予告宣言に現れたらしい。

「おい凛子、いいのか?」

「何がだ?」

「カレーの味は忘れてないからなっ!」

「うちらはそこの湯乃原高校でギルドやってまーす。三人しかおらんけど。明日はよろしくーっ!」

 なるほど、そういうキャラクター設定だったのか……それでおそらく谷口先生がN.P.C.の参加枠を作って……あの人なら面白がってやりそうだ。

「なっちゃんっ、行くよーっ」


 もしかすると、いつものピーちゃんだって現れるかもしれない。まだ子供だから、明日の試合には出られないだろうが。

「覚悟しとけよーっ!」

「なっちゃんてばっ、帰るよーーっ」

「なあ、これから団子屋でも寄って行かへん?」


 何だか面倒な事になってきた。

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