第43話 湯乃原山は忙しく
「天月草のイベントではお世話になりました~」
《万葉の祠》とエアモニターに表示されたブースは、渋谷のビル三階にある魔法の薬屋である。こちらも宣伝を兼ねての出張店舗で、錬金術師の店主は役作りのためか少し怪しげな雰囲気が漂うものの、愛想の良い女性であった。騎士の格好をした折原が手伝っている。
「おい押本、今度暇な時でいいから鬼ナマコの討伐を手伝ってくれよ。聖水の生成に必要なんだ」
「いや、それなら冒険者ギルドに依頼しろよ。隣にギルド長がいるじゃないか」
「それがなー、鬼ナマコがどこにいるのか誰も知らないんだよ」
「【錬成の書】にですね~、プレミアム聖水の材料として〝鬼ナマコの涙を少々〟って書いてあるんですけど、肝心な入手方法が載ってないんですよ~」
「凛ちゃんっ、鬼ナマコの生息場所教えてくれない?」
「フッフッフッ。それなら今度【大魔物図鑑】を発売するから、運営の公式サイトで買ってくれっ!」
「最近忙しそうにしてると思ったら、そんな物作ってたのか。商売が上手くなったな」
「全120ページで、なんと定価3万円だっ、安いっ!」
「あれ~~? 私が買った全120ページの【錬成の書】は、公式サイトで300円でしたよ~~」
「おい凛子……」
「凛ちゃんっ、それって運営の罠だよね」
「折原っ、買ってくれっ!」
さらにその横では、海乃幸とQ、そしてぽっちゃりした女の子がブースの設営を頑張っていた。この
「ちょっと押本君っ、見てないで手伝ってよっ」
「まさかとは思いますが海乃さん、酒の販売はできませんよ」
「ここはマジユニの公式ショップよっ!」
「あれ?」
言われてみると、公式の通販サイトで扱っている商品が並んでいる。
精霊の杖、退魔の剣、大地の盾、幸運の指輪に魔力回復ポーションと毒消しの実。価格はどれも《半額》だ。さらに、普段は扱っていないハイクラスの魔法薬やレアな魔道具、そして宝の地図まで置いてある。こちらは三割引だ。
「いつの間に……」
「凛子ちゃんに頼まれたのよ」
「フッフッフッ。私が抜かりなくアルバイトに雇ったんだ。運営公式として負けてられんからなっ」
「今日は幸太が試合に出るから、応援に来たついでよ」
「報酬がいいんだよなーっ」
「うふふっ、早く食べてみたいなー」
「おい凛子、報酬って何だ?」
「SSSランクの魔石だ。装備すると、手から大トロの握り寿司を出せるようになるんだ」
「何だそれ、俺にもくれっ!」
「残念だが、競技会への参加受付は既に終了しているぞ」
凛子がマジユニブースのエアモニターにトーナメント表を映した。
「この〝ギルド海乃〟ってのは?」
トーナメント表には〝海乃幸太 ギルド海乃所属〟とある。
「渋谷の支配人から参加のお誘いがあったのよ。実は私たち三人も明日の試合に出るんだけどね」
大人の部は団体戦だが、サキュバスの単騎無双が見られそうだ。
「幸ママがいれば絶対に優勝できるだろっ」
「でも、私ってデーモンのくせに人と戦ったことないんですけど……」
デーモン嬢は今にも泣きそうな顔をしている。
「大丈夫だっつーの、お前はこの中で一番防御力が高いんだから、怖けりゃ私の後ろに隠れて攻撃すればいいんだよっ」
「そういえばブンちゃんて、何でデーモンなんかやってるの?」
「だって……黄色いツノが可愛いかったから……です」
「デーモンて、たしか海乃さんのデザインですよね」
「えっ、そうだっけ……」
つくづく、魔王が落書きであることが悔やまれる。
「ところで落書きの主、じゃなくって幸太君の姿が見えませんけど」
「あの子なら開会式に出るって、もう競技場に並んでるわ」
「押本さーんっ、そろそろ時間ですのでお願いしまーすっ」
実行委員のスタッフからお呼びがかかった。ヤバい、開会式の挨拶を全く何も考えていなかった。
「ここは押本君の店なんだからね、手伝いに来なさいよっ」
「はーい、了解ですっ」
たまにはひやかしに来るとしよう。
「ちなみに幸太君て、何のキャラやってるんです?」
「こないだまではエルフやってたけど、転生したわ、忍者に」
「それはまたいい趣味ですねーっ」
「男の子って忍者好きよねーーっ」
「幸ママだって転生したもんなっ」
「えっ?! サキュバス辞めたんですか!」
「アレはさすがにね……幸太の教育に悪いと言うか、あのカッコウじゃ一緒に遊べないからねー」
「で、何を選んだんです?」
「んーーーナイショッ、明日のお楽しみっ!」
「海乃っ、どうせエロいんだろっ!」
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