第42話《最終章 マジユニ競技大会編》湯乃原山は騒がしく
どうしてこうなった……。
『それでは只今より、12歳以下の部門で優勝しました、三島小学校フェニックスクラブ所属、
〝ワーーーーーッッッッ!〟
〝パチパチパチパチッッッ!〟
〝がんばれーーーっっっ!〟
まさか、マジユニ競技大会の初日にこんな落とし穴が待っていようとは思わなかった。魔王になって、子供部門で優勝したエルフの女の子と一戦交える羽目になろうとは……。
どうしてこうなった!
〜ポンッ! ポポンッ!〜
朝日に照らされた湯乃原山の青い空を、魔法の花火が色とりどりに染めていた。
〝ポポーーンッ!〟
今日はいよいよ、マジユニユーザーグループによる競技大会の初日だ。
俺と凛子はこの一ヶ月の間、大会の実行委員会に協力して準備を手伝ってきた。実行委員長は東湯乃原小学校に勤める谷口先生で、発起人である彼は普段からマジックギルドを主催している趣味人だ。以前に実施したユーザーサポートの際に、マジユニ運営事務局は大会への支援を要請された。残る仕事としては、今日と明日の二日間で行われるユーザーの試合を、のんびりと観戦するのみとなったのである。実にめでたい。
〝ポンッ、ポンッ!〟
「いやーこんなに広い場所をお貸しいただけて、本当に助かりました」
「いえいえ、私もこの山をユーザーの皆さんに知ってもらえるので、都合が良かったんですよ」
谷口先生が最後まで悩んだのが、競技会場の選定だった。プレイコートはできるだけ広く取りたいが、大きすぎると借りるのに費用がかかる。当然、アクセスのしやすい場所でなければユーザーに不便を強いてしまう。
「ここは地鎮祭も終わってますし、工事は来週からですので使うなら今の内です」
渋谷のギルド長は売りに出されていた湯乃原山のキャンプ場を購入した。程よく荒れていたキャンプ場の整地は既に完了して、冒険者ギルドの二号店兼住宅は今年の夏頃には完成する見込みだ。敷地の隅にはすでに建設会社の小さなプレハブ事務所も建てられており、ありがたい事にその横に設置された飲料の自販機と仮設トイレは建設会社の好意で使用が許可された。
湯乃原山での競技大会は今回で最後になるだろうが、マジユニのユーザーにピンポイントで店の場所を宣伝できるとなれば、建設用地を無償で提供するというギルド長の判断は正しかったと言えよう。これで冒険者ギルド二号店の成功は半分約束されたようなものである。
ちなみに、最寄りの駅から試合会場である湯乃原山の頂上までは、地元の鉄道会社に送迎バスの運行を依頼して繋いだ。これは、マジユニ運営事務局の支援で実現したものだ。
「運営のお二人は特別名誉顧問ですので、この本部テントの座席から試合を観戦して下さい。出入りはもちろん自由です」
〈大会本部〉と書かれたテント屋根の下に
「押本と谷口は試合に出ないのか?」
「私は実行委員の仕事がありますのでね」
「俺は顧問の立場だからな、凛子もここで大人しくしてろよ」
今日と明日の仕事は、ただ椅子に座って試合を眺めるだけである。
「あ、押本さんには、開会式で一言ご挨拶をお願いします」
「えっ……」
「よかったな押本っ、出番があるぞ」
先に言っといてくれよ。何を話せばいいんだか……。
大会初日の今日は、開会式と12歳以下によるトーナメント戦が行われる。
競技会場の湯乃原山には、朝早くから近隣各地のユーザーグループが集まり、参加する子どもたちや付き添いの親御さんたちですでに賑やかだ。さながら小学校で開かれる運動会の様相である。参加者の数は大人と子供を合わせても200名程度と少ないかもしれないが、マジユニ始まって以来のユーザーによる手作りイベントであるためか、みんな楽しそうだ。
「いいなー、押本さんは特別ゲストですか」
そしてなぜか、大会本部の横には《特別価格、値引き、半額OFF》と朱書きされた札が並びつつあるのであった。
「大井田だって専用のブースで座ってるだけだろ」
「何言ってんですか、こっちはお客さんの相手するんだし、仕事なんですよ」
「俺だって仕事だが……」
渋谷の冒険者ギルド本店は臨時休業となり、大井田は《武器と防具屋》の出店を開くためにマジユニ競技大会に来たのだった。
「人手が欲しいんで、せめて出店の区画だけでも青旗を外してくれませんかねー」
「そんなことしたら大混乱だっ!」
会場の敷地内は【N.P.C.キャンセラー】の旗で囲ってある為、大井田が普段使っているN.P.C.の店員も臨時休業となった。おまけに、二日間でどれだけの商売になるか予想がつかなかったため、大井田は昨日から一人で軽トラックを使い、3回往復して商品の山を運んだそうだ。
「社長ー、ブースの設営手伝ってくださいよー」
「ああ、ゴメンゴメン。それよりさー、僕はもうギルドの支配人だからね、ギルド長でもいいからさー」
「さあさあいらっしゃーいっ! 今日だけのサービス価格ですよーーっ!!」
売れ残ったらまた往復しなければならない、大井田の勝負所であった。
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