第25話 湯乃原山の頂上決戦 その3~ピヨちゃん現る~
恋紋は自分の魔法にやられて敗退してしまった。
「いやー盲点やったわー、あんな方法で魔法が破られるとは思わへんかったわ」
「あんな方法って……走ってただけだよねー」
「よーし、やっと大将の出番だ!」
こうなると、もはや夏菜が最後の希望である。
「よろしくお願いしまーーすっ!」
夏菜は落書き魔人に一礼をすると、炎の剣を振りかぶっていきなり突進した。
「オリャーーーーーッッッッ!!!」
〝ガチンッ!〟
もう一度焚き火を起こそうとしていた落書き魔人は、火の付いた黒い棒で夏菜の剣を受け止めた。
「テイッッ!」
〝ジャリン!〟
「テヤッッ!」
〝ガチン!〟
「ソリャッッ!」
〝ガキン!〟
夏菜の振るう炎の魔剣が空を焦がし、落書き魔人を徐々に追い詰めて行く。
「セヤッッ!」
〝バチンッ、バチバチバチンッッッ〟
大きな衝撃音とともに夏菜がひっくり返った。落書き魔人が手から何かを発射したのだ。夏菜はすぐに立ち上がったが、盾とチェーンメイルが焼けたように茶色く汚れている。
「なっちゃんっ! 大丈夫っ!?」
どうやら体よりも精神的なダメージが大きいらしく、夏菜が無言で剣を振って答えた。落書き魔人はどんな攻撃をしたのだろう?
「小夜ちゃん、なんかええ匂いせえへん?」
「ホントだ、これってもしかして……」
「たこ焼きちゃうかっ?!」
〝ベキンッ!〟
たこ焼きが夏菜の剣を弾き飛ばした。
「なっちゃん離れて!」
「ポーションで回復や!」
炎の剣がクルクルと回り落下した。
〝ザシュッッ!〟
宙を舞った炎の剣は、偶然にも焚き火の横の青い旗を切り倒した。しかし、落書き魔人は今更といった感じであまり気にしていないようだった。単なる飾りなのだろうか?
「あいつなかなか強いぞ!」
夏菜はポーションを飲み干すと嬉しそうに叫んだ。
「まだやるのっ?!」
「もちろんっ!」
「夏菜からソースのええ匂いするなーっ」
「ここで会ったが100年目!」
その時、見知らぬ少女が我々の横に立っていた
「えっ?」
「何っ?」
「なんやっ?」
少女は中学生ぐらいで、夏菜に似た剣士の格好をしていた。
「なっちゃんの知り合い?!」
「この
「あっ、うち知ってるっ!」
「えっ、ピヨちゃんて、誰っ?!」
「有名なN.P.C.だよっ! 騎士とか魔法使いとか僧侶とか、色々なキャラクターで現れるんだ!」
「ヤーーーッ!!」
ピヨちゃんは勢いよく剣を振りかざして落書き魔人に突っ込んで行った。
〝ガンッ!〟
〝ギンッ!〟
〝ガチンッ!〟
〝ギンッ!〟
〝ガガンッ!〟
ピヨちゃんと落書き魔人の激しい
「なんだあの速さっ!」
「めっちゃヤバいやんっ!」
ピヨちゃんの鋭い攻撃を、落書き魔人は一歩も引かずに黒い棒で受け流している。明らかにさっきとは動きが違う。おそらくこのピヨちゃんは落書き魔人の宿敵で、何度も戦って共にレベルを上げたのではないだろうか。
〝バガンッ!〟
ピヨちゃんの剣が黒い棒で叩き落とされてしまった。
落書き魔人はすかさずピヨちゃんに手を向けると、今度は茶色い塊を続けて発射した。
〝ドドドンッ! ドンドンドンッッッ!〟
「痛てててっ!」
ついにピヨちゃんが倒れた。
「おのれ魔族めっ! バーカバーカッ! 覚えてろーっ!」
ピヨちゃんは剣と悪態を残して、木の影に消えてしまった。
〝カアアァーーッ〟
〝カアァーーーッ〟
カラスの群れが嬉しそうに鳴くと、落書き魔人が空を見つめた。
「今だっ!」
夏菜がピヨちゃんの剣に向かって走った。しかし、落書き魔人に隙はなく、夏菜に向けて同じ茶色い塊を打ち続けた。
〝ドンドンドンッ! ドンドンドンッッッ!〟
夏菜はそれを全て盾で弾き返すと、一つを拾って私と恋紋に投げた。
「これって……」
「揚げたてやな……」
足元に唐揚げが転がっている。カラスが騒ぐはずだ。冬は特に食べる物が少ない。
〝ドンドンドンッッ!〟
夏菜がついにピヨちゃんの剣を掴んで、落書き魔人に向かった。
〝ドンドンドンドンドンドンッッッ!〟
その時、空が急に暗くなった。
「なっちゃんダメっ! 上っっっ!!!」
「あかんっっ!!!」
夏菜が落書き魔人に切り掛かったその瞬間、カラスの群れが夏菜を襲った。
〝ガアアアアァーーーーーーッッッッ!!!〟
餌をくれる落書き魔人の敵は、カラスの敵でもあったのだ。
「なっちゃんっっっ!!!」
「夏菜っっっ!!!」
「まだまだーーーっっっっ!!!」
ポーションで回復した元気いっぱいの夏菜が黒い群れを脱出した。
「とりゃーーーーっっっっっ!!!」
〝ブシャーーーーーーーーッッッッッ!〟
すると今度は、赤黒い粘液が落書き魔人の手から吹き出して、夏菜の顔を襲った。
「!!!!!」
何を思ったのか、夏菜は顔を真っ赤にしながら急いで戻ってきた。
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーっ!」
「なっちゃんいい匂いっ!」
「カレーやなっ!」
夏菜の唇が大きく腫れている。
「水水水水水水水水水水っ!」
夏菜はリュックを拾うと、そのまま走って帰ってしまった。
後で気づいたのだが、夕日を浴びて立つ落書き魔人の背中は、あの団子屋で見た男の後ろ姿によく似ていた。
「ほな、うちらも帰ろかっ」
「お腹空いたしねっ」
こうして
ちなみに、夏菜の唇は三日で元通りになったが、彼女はしばらくの間カレーを食べなかった。
「あの落書きっ、今度会ったら殺す!」
「なっちゃん、目が怖いよ」
「何の魔物やったんやろな?」
そしてこの日〝マジ何とか〟は大幅なアップデートが行われ、以降現れる魔物は手強くなったのだが、その原因が我々にあるのかどうかは今だに不明である。
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