第24話 湯乃原山の頂上決戦 その2~焚き火と竜巻~

 小雪がチラつき始める中、私は寒いのを我慢して前に進み出た。


「がんばれ小夜ーーっ!」

「しばいたれーーっ」

 落書き魔人は焚き火に当たって暖かそうだ。


「えいっ! えいっ!」

 私はいつもより重く感じる杖を振ると、角蛙と双頭の白蛇を召喚した。


「行けっっ!」

 私の命令で一斉に飛びかかって行く蛙と蛇のスピードが、なぜかいつもよりめちゃくちゃ速い。

「スゲーっっ!」

「小夜ちゃん気合い入ってんなーっ!」

 突進する蛙と蛇。しかし、落書き魔人は動かない。

「行けーーっ!」

 蛙と蛇はそこで止まった。正確には焚き火の前で。


「どうした小夜っ!」

「やられたんかっ!?」

 蛙と蛇は、焚き火に当たって暖かそうだ。

「おい小夜……」

「なあ、うちらも焚き火しよか……」


 落書き魔人が焚き火に向けた手から水を出した。


〝ジュジュ~~ッ〟

 火が消えると、蛙と蛇の姿も消えてしまった。

「おーい小夜……」

「なるほどなー、変温動物やからなー……」


「えいっっっ!!!」

 私は寒さを振り払うように、今度は全魔力を振り絞って筆蜂を召喚した。今までに出したことのない数で、40匹近くいるせいか羽音がうるさかった。


蜂球はちだまっ!」


 蜂が寒さに負けないように、密集して体温を上げる体勢を取らせた。ミツバチがスズメバチを囲い、高温でやっつける方法を真似したのだ。

「こんどこそスゲーっっ!」

「小夜ちゃん頭ええやんっっ!」

「行けーーっっっ!!!」

 宙に浮かぶ蜂球が、落書き魔人を目掛けて飛んで行く。最後は囲って刺すだけだ。

 すると、落書き魔人がポケットからスプレー缶を取り出した。


〝プシューーーッ〟

 あっけなくやられた。


 落書き魔人は殺虫スプレーを使ったのだ。おそらく、事前に我々のWebサイトを調べていたに違いない。情報が筒抜けになっていたのは失敗だった。

「恋紋ちゃん、出番だよー」

 魔力を使い果たした私は、やむなく次鋒にバトンタッチをした。


「ほな行くでーっ!」

 恋紋は魔法の杖をバトンのように回すと、悠々と落書き魔人に立ち向かった。

「私の分残しといてくれよーーっっ!」

「油断しちゃダメだよーーっっ!」

 少し悔しいが、落書き魔人は黒い棒を構えて警戒している。


 どちらが先に仕掛けるのか、二人はしばらく動かなかった。

 雪がやんで、空にカラスが舞っていた。


〝カアーーッ〟

 カラスが鳴いたその瞬間、恋紋が呪文を唱えた。


「アイスロックニードル!」

 恋紋の杖から棘の付いた氷のボールが降り注いだ。


〝バチバチバチンッッッッ〟

 しかし、落書き魔人は黒い棒の先から炎の傘を広げて弾き返した。火炎のシールドである。

「やるやんっ。小手先の魔法じゃあかんいうことやなっ。ほんなら全力でいこかっ」

 恋紋は魔法の杖を両手で高々と掲げると、私も夏菜も知らない魔法を使った。


「フローズントルネードッ!」


〝ゴオオオオッォォッッ!!!〟

 急に強い風が吹いたかと思うと、みぞれ混じりの竜巻が現れた。人の背丈よりも大きく、落ち葉や小石を吸い込みながら激しく踊っている。

「スゲーな恋紋っっ!」

「恋紋ちゃんがんばれーーっっ!」

「ほな行くでーっっ!」

 暴れる竜巻が移動を始めると、さすがにこれには参ったのか、落書き魔人は走って逃げ出した。

「うちの勝ちやーーーーーっっっっっ!」


 甘かった。

 落書き魔人は走る方向を恋紋に変えた。


「ちょっ、ちょっとこっちに来たらあかんやん!」

〝ゴゴゴゴゴゴゴオオオオッォォッッ!!!!〟

 迫り来る竜巻から逃げ出す恋紋。


「おっ、おい恋紋っ、こっちに来るなよっ!」

「ちょっ、ちょっと恋紋ちゃんっ?!」

「あかんてあかんてっ!」

 あかんのは恋紋であり、焦ったのか竜巻のコントロールを失い、暴走した魔法に巻き込まれて自爆してしまった。


 私と夏菜、そして落書き魔人はなんとか木の影に隠れて助かったのだった。

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