第42話 平和が訪れ、いちゃいちゃタイム
「はぁ、城下町に来るのも久々だなぁ」
ここは王都の広場の噴水の前。
石造りの縁に腰掛けて、俺はのんびりした気分で伸びをした。
今日は城下町なので王子ではなく、フリーの冒険者リック・フェリスである。
「本当、ここしばらく忙しかったからなぁ……」
王宮での決戦から半月が過ぎた。
あれから俺たちは女神の力を使って、すぐに天空の神殿へ移動した。神殿はミーアの予想通り半壊状態で、今にも次元の『狭間』に墜ちようとしていた。
そこから女神アスティを助けだし、どうにか一段落。
なんか未来の俺と女神アスティが感極まって猛烈にイチャイチャし始めていたが、見ないフリをしてこっちの世界に帰還した。
次は
で、これも上手くいった。
世界が剣の形になってしまうと困るので、その調整に結構手間取ったんだが、これは最終的に――魔王が手伝ってくれてどうにかなった。
そう、魔王。
未来の俺が殺したはずの転生者である。
ミーアからループ世界の話を聞いた後、俺は王子の特権をフル活用し、未来の俺より先に転生者を見つけ出した。その頃、未来の俺は古代ダンジョンを攻略して水晶剣を手に入れようとしていたから、なんとか先回りできたのだ。
彼を助けた方法は至って単純、冒険者ギルドから『分身』のスキルを持った冒険者を紹介してもらい、そのスキルを聖剣化で使わせてもらった。スキルは『分身』でも『身代わり』でもなんでも良かったので、この辺りは簡単だった。
未来の俺は魔王を倒すつもりで、転生者の分身を討ち取っていたというわけだ。彼を助けた理由は『俺が罪のない人を殺したらアスティが哀しむ』というものだったんだが、情けは人の為ならず、良いことをしたら自分に帰ってくるのかもしれない。
転生者にはすでに魔王の記憶が流入し始めていたため、世界の聖剣化にあたって逆に様々な魔術的知恵を授けてくれた。おかげで世界を現状の形で聖剣化することができた。その際、転生者にも強化を施したので、彼がこの先魔王になることはないだろう。一件落着だ。
「しっかし、いつ見てもすごい光景だな……」
俺の頭上、青い空にはまるで幻のように非魔術世界のビル群が見え隠れしている。世界が隣接した状態で固定されたので、微妙にお互いの景色が垣間見えているのだ。
こっちの世界についてはフェリックス王国から通達を出しているので、各国に大きな混乱はない。だがあっちの世界ではたぶんニュースとかで大騒ぎになっているだろう。まあ、その辺も追々どうにかしていこうと思う。
とりあえず問題は解決した。
世界は平和になった。
――が!
だがしかし!
今、俺は逆に大問題を抱えていた。
「どうすればいいんだろうな……」
否、答えなんてとっくに出ている。
あとはそれをどうクリアしていくか、だ。
ビル群がうっすら透けている空を眺めて、そんなことを考えていると、パタパタと足音が聞こえてきた。
「レ、レオー……」
アスティである。
今日は俺が久々に城下町に繰り出すので、いつものごとくお目付け役として同行してくれるのだ。ただ教会で仕事があるというので、この噴水で待ち合わせしてたんだが……大通りから駆けてくる彼女はなんとも気まずそうである。
気まずいというか、どんな顔をして俺に会えばいいかわからない、といった感じだ。ちなみに俺もまったく同じ思いだったりする。
「お、おー、アスティ。お疲れさん、ええと……仕事は終わったのか?」
「あ、うん。えっと、今日はお父様の慰問の付き添いだったから、もう大丈夫」
「そっか」
「うん」
「…………」
「…………」
変な沈黙が現れた!
恐ろしい……っ。
どんなモンスターが現れるよりも、変な沈黙が現れる方が100万倍怖い。だって聖剣があったって倒せないからな。
「なんていうか……」
俺は頭をかきつつ、どうにか沈黙を埋めようと口を開く。
「久しぶりだな。こうやって2人きりになるの……」
そうなのだ。
ここ最近、世界を救うために奔走していたので、俺たちのまわりには常に誰かしらがいた。こうして落ち着いて2人きりになるのは実に半月ぶりのことなのだ。
俺としては単に事実を言ったつもりだった。
しかしこれが良くなかったようで、アスティは過剰に反応してしまう。
「ふ、2人っきりとか! そういう言い方はよくないと思うの!」
「へ!? いやだって2人きりは2人きりだろ?」
「そうだけど! でもでもっ、そんなふうに言葉で言われたら……」
言い淀むように口元をもにょもにょさせ、アスティはうつむいた。その頬はうっすら色づいている。
「……意識しちゃう」
意識しちゃうのか!
嬉しいような、嬉しいような、普通に嬉しいけども!
やばい、嬉しさしかない。
しかしここで妙なことを言うと、さらに変な沈黙が現れるのもわかっている。だからあくまで冷静さを装った。
「わ、わりぃ……」
「うん……」
「とりあえず行くか」
「今日はどこに行くの?」
「あー、まだ決めてないけど……とりあえず冒険者ギルド辺りを目指したり?」
「ん、じゃあ目指したりしましょう」
ぎこちない会話をし、俺たちは歩きだす。
さて、白状すると、俺たちがこんな雰囲気になっているのは何も久しぶりに2人きりになったからだけじゃない。明確な原因がある。
未来の俺と女神アスティのせいだ。
天空の神殿から助けだしてからというもの、2人には城の客間を使ってもらっている。王宮は半壊させてしまったので、王城の来賓室の方だ。そこで――たぶん、おそらく、きっと。
あいつら毎晩、大人なことしてる。
見たわけじゃない。
聞いたわけでもない。
でもなんかほら、空気でわかるだろ?
セリアやフレデリカ・ライラたち大人組は何食わぬ顔でスルーしているし、子供のミーアはそもそも気づいていない。
おかげで俺とアスティだけがその空気にモロに当てられてしまっている。
朝食の時、ふとした拍子に妙に慈しみ合うような眼差しで見つめ合ってる瞬間があったりとか。どっちも首筋に明らかにキスマークっぽいものがあって服の襟で隠してたりとか。雑談をしている時、女神アスティがなぜか未来の俺の寝言を知ってたりとか。
数え始めると、枚挙に暇がない。
あいつら、絶対してる。
絶対、大人なことをしまくってる。
しかも、しかもだぞ?
あいつらって、生まれるタイミングが違った、俺たち自身なんだぞ?
そんな空気に半月も当てられ続けて、久しぶりに2人きりになったら、そりゃあお互いぎこちなくもなるだろうよ!
「ね、ねえ、レオ……」
歩きだして程なくすると、アスティが我慢できなくなったかのように口を開いた。たぶん俺と同じことを考えていたのだと思う。
「あのね、未来のレオとあたしのことだけど……」
「お、おう」
やっぱりその話だった。
どうあがいても逃げることはできない、いつかは話し合わねばならないことだ。
ものすごく恥ずかしそうにアスティは視線をさ迷わせる。
「……夜さ……やっぱりそういうこと……してる? よね? あれ、きっと……」
「……だなぁ」
アスティに恥をかかせるわけにはいかない。
変に誤魔化すことなく、俺は深くうなづいた。
するとアスティは堰を切ったように話しだす。
「だよね!? やっぱりそうだよね!? セリアさんに言っても『さて、なんのことでしょうか?』って誤魔化すし、フレちゃんに言っても『言わぬが花、という言葉を辞書で調べて御覧なさい』って窘められちゃうし、でも絶対してるもーん!」
グーにした手をブンブン振って熱弁する、アスティ。
ああ、だいぶ溜まってたんだなぁ、これは。
「いいの!? あれ、いいの!? だってあのあたし、女神様だよ? 女神様ってそういうことしていいの!?」
「まあ、ほら、あっちの俺も剣神だし……?」
「神様だけエッチなことしていいなんてずるーい!」
「へっ!?」
「あっ」
ずるいとか!
自爆!
これは圧倒的な自爆……!
とんでもねえことを言い放ってしまい、アスティの顔がかぁーっと赤くなっていく。そのまま涙目でぷるぷると震え始めた。
あ、ヤバい。
これヤバい。
ど、どどど、どうする、俺!?
このフォロー、世界を救うより難しいSSS級クエストだぞ……!?
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