第39話 四大聖騎士、集結

俺たちみんな、、、、、、の力でな!」


 21歳の俺へと言い放ち、直後に俺は指示を飛ばす。


「いけ、セリア!」

「御意! 我が王!」


 破損した窓を蹴破って、四大聖騎士の一角、『雷帝のセリア』が飛び込んできた。細身のロングソードを振り上げ、即座に斬り下ろす。


 21歳の俺は一瞬驚いた顔をし、しかしすぐに迎撃態勢を取った。


「セリアだと!? ここで四大聖騎士を出してくるかよ……ッ」

「失礼致します! もう一人の我が王よ!」


 一切の躊躇のない、全力の嵐と稲妻が炸裂した。


 そう、この決戦に当たって、俺は城の仲間たちにすべてを話した。1週目や2週目の世界や未来の俺のこと、この3週目世界でもこれから終焉の極宴壊ラグナティアが起こる可能性が高いことも。


 事故から蘇った当初こそ、まわりを混乱させないためにフェリックスの女神のことなどは伏せていた。しかし事ここに至っては隠し事をしている意味はない。


 正直に話し、仲間たちの力を借りて、俺の持ちうるすべてでまずはこの未来の俺を止めるんだ。


「四大聖騎士を使って、俺との戦力差を作ろうってことか。だが甘い!」


 漆黒の騎士は水晶剣を一閃。

 鋭い斬撃が嵐と稲妻を引き裂いた。

 衝撃の余波で王宮の壁が吹き飛び、セリアは感嘆の声を上げる。


「お見事です……! さすがは我が王の未来の姿! しかし!」

「来い、セリア!」

「はっ!」


 水晶剣の余波をギリギリで回避し、セリアは牽制の稲妻を放ちながら方向転換。俺の方へとすぐさま駆けてくる。


 漆黒のマントで稲妻を防ぎ、未来の俺が眉を寄せる。


「何をする気だ?」

「聖剣は一振りじゃないってことさ」


 俺はセリアの胸へと手を伸ばした。

 雷帝の名を冠する騎士は身を捧げるように目を閉じる。

 

女神の聖花を導く者ルナ・アーク・ブレイド!」


 魔力の光が輝き、セリアの胸から銀色の聖剣が引き抜かれる。

 俺はすでにヒュードランを聖剣に変えている。しかし2本同時に聖剣化できないなんて理屈はない。


 今までは必要なかっただけで、聖剣の二刀流は可能なのだ。


「スキルを借りるぞ、セリア!」

「お好きに。我が身と我が魂はすべて王のものです!」

「ヒュードラン、でかいのいくぞ。力を振り絞れ!」

「『我は別に主のものではないんだがな……』」


 右手の聖剣でドラゴンのブレス。

 左手の聖剣で嵐の衝撃波。


 交差させた状態から一気に聖剣を振り下ろし、莫大な二種類の光がほとばしった。


「ちぃ……ッ」


 さすがに焦りの表情を浮かべ、未来の俺は素早く跳躍。吹っ飛んだ壁の瓦礫を蹴って、空中へ退避する。その足元でブレスと嵐が王宮の北側を粉微塵に破壊した。


「畳み掛けるぞ! ――来い、ユアン!」


 俺は叫んで床を蹴る。

 同時に王宮の南側から人影が飛び出した。


「はいはい、チャージは完了したよ。いつでもどうぞ、殿下」


 微妙にやる気なさげな声で答えたのは、四大聖騎士の一角、『暗輝あんきのユアン』。常にローブを深くかぶった、長髪の青年だ。


 俺はセリアの『女神の嵐の聖剣』を光に戻し、駆けつけたユアンの胸から空中で新たな聖剣を引き抜く。


「僕のとっておきのスキルなんだから、ちゃんと役立ててくれよ」

「任せとけ! お前のスキルが勝利の鍵だ!」


 魔力の光のなかから現れたのは、曲がりくねった歪な曲刀。

 それを手にして、俺は漆黒の騎士へと肉薄する。


「ユアンの毒か……! だが斬られなければ効きはしない。俺には通用しないぞ!」


 水晶剣から斬撃を飛ばして牽制してくる。

 俺は聖剣のブレスで加速し、すべてを避けて、曲刀を振り上げる。


「そいつは聖剣化前のスキルのことだろ!?」


 曲刀と水晶剣がぶつかり合った。

 その瞬間、キィィィンッと甲高い音が波動のように広がり、未来の俺が血を吐いた。


「な……に……っ!?」

「ははっ、効いてるじゃないか!」


 ユアンのスキルは『万物の毒』。

 一定時間、対象を観察してチャージすることで、その対象に最適な毒を作り出すことができる。戦闘開始当初、俺が廊下に逃げて時間を稼いだのは、王宮の南側からユアンに未来の俺を観察させ、毒を作らせるためだ。


 本来、ユアンの毒は自身の曲刀に込めて斬りつけることで発動する。しかし聖剣化したことによってその制約は超越した。もはや曲刀の刃音だけで毒を発動できる。


「お前に喰らわせたのは即効性の麻痺毒だ。ついでに内臓にもちょっとダメージいくようにしといたぞ?」

「クソ……ぐっ!?」


 動きが鈍くなったところを狙い、蹴りを叩き込んだ。未来の俺は王宮前の地面へと落下していく。


「次! 来い、ジャスパー!」

「待ってたぜぇ! 俺様の出番かぁ!」


 地響きのような大声と共に、庭園の方で爆発が起き、大量の瓦礫が降ってきた。未来の俺は地面に激突し、その上にさらに瓦礫が降り注いでいく。


 しかしそんな程度でどうにかなるわけはない。

 なんせ未来の俺だからな。

 一切の油断をせず、俺は手を伸ばす。


 すると身長二メートルはある、甲冑の大男が庭園の方から飛び込んできた。

 男の名は『大瀑布のジャスパー』。もちろん四大聖騎士だ。


「いつかあんたをぶっ倒したいと思ってたんだ。俺様のスキルで存分にあんたをぶっ倒してくれよ、レオ様!」

「ああ、そうさせてもらう!」


 ジャスパーの胸から聖剣を引き抜く。

 その身長と同じようにやたらとでかい、大剣だ。ジャスパーのスキルは文字通りの『大瀑布』。爆発的な滝のような水流を生み出すことができる。


 聖剣は三本目。

 ドラゴンと曲刀を左手に持ち、右手で大瀑布の大剣を振り被る。


「ぶっ倒れろ、未来の俺!」


 海さえも裂くような爆発的な水流が生まれた。

 それは漆黒の騎士の落下地点へ炸裂し、大量の土砂が巻き上げられる。


「このまま水圧で押し潰す……!」

「――そう上手くいくと思うか?」


 水底から響く、静かな声。

 次の瞬間、ダイヤモンドダストのような光が輝き、大瀑布に一陣の斬撃が走った。


「ちっ……! 全員、退避!」


 俺が命じた瞬間、セリア、ユアン、ジャスパーはすぐさま散会。ほぼ同時に斬撃の雨が大地から天空へと疾走した。大瀑布が斬り裂かれ、地の底から漆黒の騎士が顔を上げる。


「魔王との戦いはこんなものじゃなかった。いくら聖剣で強化したところで俺には……」

「じゃあ、わたくしを強化しても無駄ですかしら?」

「――っ」


 歌うような可憐な声が聞こえた途端、未来の俺は表情を変えた。瞬時に防御姿勢に入り、次の瞬間、漆黒の鎧が粉微塵に弾け飛ぶ。


「ははっ、そうだな……っ。お前はさすがに別格だ……!」


 魔道具のマントでどうにか致命傷は防いだようだ。しかし表情に余裕はない。未来の俺は苦笑いで水晶剣を一閃。そうやって不可視の力を斬り裂いた。


 それでもまだ緊張は解けていない。

 未来の俺は油断なく、城の暗闇を見つめる。


「ふふ、お褒めに預かり光栄ですわ。その謙虚さは成長しても変わりがないようですわね、レオさん」


 ふわり、ふわり、とどこまでも優雅に。

 華美なドレスの淑女がやってくる。

 真っ赤な赤毛の縦ロール。

 化粧も香水も完璧で、およそ戦場に出てくる格好とは思えない。


 それでも彼女は花のように凛とここに立つ。


「四大聖騎士、『第五次元波動のフレデリカ・ライラ』。ここに参上いたしましたわ」


 ドレスの端を持ち、フレデリカ・ライラは優雅に挨拶をしてみせた。

 すると彼女に付き従うようにセリア、ユアン、ジャスパーが背後に立つ。


 フレデリカ・ライラ。

 そのスキルは予測不能で正体不明の『第五次元波動』。


 彼女こそは『フェリックスの剣王』に唯一比肩する――四大聖騎士最強の淑女である。ここに王国の四大聖騎士が勢揃いした。

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