第33話 さりげなくイチャつく帰り道
俺はドラゴンの聖剣を2、3度振って感触を確かめる。
うん、悪くないな。これなら2週目の俺とも十分やり合えそうだ。
「いい感じだぞ、ヒュードラン」
「『ぐぬぬ、魔術師の契約が切れたと思ったら、今度は魔王の剣にされるとは……なんたる屈辱』」
「だから魔王じゃないっての。これからは俺が主だからな?」
「『ぐぬぬぬぬ、なんと横暴な主か……っ』」
そんな会話をしていたら、ずっと腰を抜かしていたトムがおっかなびっくりで立ち上がってきた。
「おい、おいおいおいおい、リック!」
「あー、トム、ただいま」
「ただいま、じゃねえのよ! もう色々何なんなんだよ、色々!」
ああ、そっか。
戻ってきて早々、セリアにスキルを返したり、ヒュードランの血で討伐隊の治療をしたりしていたから、まだちゃんと状況を話せてなかったな。
「ええとだな……あの後、俺、こいつに追いついたんだ」
聖剣になったヒュードランを指で示す。
「で、やっつけたんだけど」
「やっつけたん!? ドラゴンを!? いやまあ、やり取り見てて、そんな気はしてたけどさ!」
「ただこいつ……ドラゴン共には親玉がいたんだ。それがあの魔術師」
俺は草の上に寝かせたダグラスを指差す。
するとセリアが「あれは……」と眉を寄せた。
「魔術同盟の……深淵の魔術師ですか?」
「知ってるのか、セリア?」
「はい。ちょうど私が四大聖騎士になった頃に追放された魔術師なので、よく覚えております」
「で、まあ……」
2週目の俺のことはトムたちには話さない方がいいか。セリアにはある程度話すべきだが、それはあとにしよう。
「あの魔術師が各地で女性をさらって魔術儀式をやろうとしてたんだ。だから倒して連れてきた。あっちの女性たちは一度王都で休んでもらって、体調が万全になってから故郷に送ろうと思ってる」
「はぁ……」
なんかトムから生返事が返ってきた。
「……んで、この女騎士さんから剣みたいなのを引き抜いてたのは? あれ魔術じゃねえよな? 俺も冒険者の端くれだからわかるけど、どう見ても魔術の領域越えてる感じだったぞ?」
「あー、あれは……俺のスキル」
「スキル持ってたんかよ、リック」
「あー、うん、持ってた」
「はぁ……」
今度は生返事じゃなく、ため息だった。
トムは額を押さえて宙を仰ぐ。
「つまり何か? 俺の友人はめちゃ強なスキル持ちで、ドラゴンを追いかけてって倒した挙句、黒幕の魔術師も捕まえて、さらわれてた女の子たちを見事に救出してきたと? そういうことか?」
「まあ、そうなる……か?」
「そうなるねっ」
「そうなります」
や、なんでアスティとセリアがドヤ顔なんだよ?
一方、トムはさらに深くため息をつき、俺の肩にポンッと手を置いた。
「なあ、リック」
「お、おう?」
あれ?
なんだ?
なんかトムの様子が変だぞ?
あっ、まさか……俺が王子だってバレたか!?
そういやセリアも普通に『嵐』のスキル使ってるし、リック呼びとはいえ俺に様付けしてるし、さすがに気づく要素がてんこ盛りな気がしてきた。
「えっと、トム! その、ええと……っ」
「本当、お前……」
俺がしどろもどろで誤魔化そうとしていると、突然、トムが顔を上げた。
「すっげえじゃん!」
「へ?」
「まさかこんな近くにスキル持ちがいると思わなかったぜ! しかも一人でドラゴン倒すわ、黒幕やっつけるわ、めっちゃ格好良いじゃん! なあ、みんな!?」
トムが振り返ると、それまでこっちの様子を窺っていた冒険者たちが一斉に沸いた。どたどたと駆けてきて俺を取り囲み、やんややんやと囃し立てる。
「よくやってくれたよ、兄ちゃん! あんたがいなきゃ、俺らドラゴンに敗けてたかもしれんしな!」
「フリーの冒険者なんだって? だったらウチに来いよ! 幹部の席を用意するぜ!?」
「おかげでドラゴンにやられた傷も治ったよぉ。あんたは俺ら冒険者ギルドの英雄だ……!」
どうやら正体はバレずに済んだらしい。
それにしたって英雄だなんて大げさだが……まあいっか。
その後、俺たちは討伐隊と共に引き返し、王都への帰路に就いた。色々あったが、とりあえず2日後までは穏やかに過ごせるはずだ。
長い隊列の頭上には青い空が広がっている。
俺はアスティと一緒に隊列の中程をのんびり歩く。
するとぽそっとアスティがつぶやいた。
「ねえねえ、レオ」
「んー?」
「セリアさんのことだけど」
「セリア?」
突然、どうしたんだ? と俺は首をかしげた。
「セリアさんって……レオのこと好きだよね?」
「いやいやいやいやいやいやいや」
何をいきなり言い出すんだ?
しかしアスティは止まらない。
むーっ、という顔で俺を見上げてくる。
「だって国王様がいるのに、レオのこと『我が王』って言ってるし、さっきもなんかえっちな感じだったし、ぜったいそう! あたしの女の勘がビシバシ言ってる!」
「ビシバシとか勘が言う擬音じゃないと思うんだが……」
困り果てつつ、俺は背後を振り返る。
セリアは俺たちの後方で冒険者たちと話していた。
みんなから「よ、四大聖騎士ですよね……?」とおっかなびっくり聞かれ、それを涼しげに躱しているようだ。
しかし俺が振り返るとすぐに視線に気づいて、ニコッと笑みを向けてきた。いつもはどこか冷たい雰囲気の美人なのに、愛嬌全開だ。
当然、アスティは鬼の首を獲ったようになってしまう。
「ほらーっ!」
「や、いやいや……っ」
あれは敬愛の類だろ?
そう……だよな?
ただ、アスティからは『レオが他の子を好きになっちゃうかもしれないのやだ』と以前に言われている。ここは男としてハッキリしておくべきところだろう。
「何がどうあろうとさ……」
あーもうこっ恥ずかしい。
だが言うしかない。
俺は明後日の方を向きながら、アスティにだけ聞こえる声で言い切る。
「……俺が好きな子は一人だけだ」
「ふぇっ!?」
一瞬でアスティの頬が真っ赤になった。
そして、あたふたと大慌てし始める。
「あっ、えっと、あのその……っ」
まったく、自分でけしかけといてこれだもんな。
俺は照れ隠しで、あえて意地の悪い顔をしてみせる。
「これで満足でございますか、お姫様?」
「あ、あうぅぅ……」
アスティはもじもじと身じろぎし、真っ赤な顔で囁いた。
「……はい、余はたいへん満足です……」
「これに懲りたら変なヤキモチは妬かないように」
「……うぅ、はいぃ、ごめんなさいでしたぁ……」
ああ、クソ、めちゃくちゃ恥ずかしい。
こっちも顔が熱くなり、ぱたぱたと手で仰ぐ。
すると腰紐に差した聖剣からどんよりした声が聞こえてきた。
「『我はこれから毎日こんなものを間近で聞かされるのか……』」
うわそうだ、こいつそばにいたんだ。
さすがに自分でも若干理不尽だとは思いつつ、俺は無言で聖剣をべちっとはたいた。
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