第32話 ドラゴンの聖剣を手に入れた!
俺たちがヒュードランで降り立つと、討伐隊は軽くパニックになってしまった。
「ドラゴンが戻ってきたぞ!?」
「戦闘準備! 前衛は前に出ろ! 魔術師たちは援護を頼む……っ」
「ちくしょう! あいつを追っていったリックはどうなっちまったんだ!?」
その混乱のなか、俺はアスティと一緒にヒュードランの背中からひょっこりと顔を出す。
「あー、わりぃ! みんな、大丈夫だ!」
「ヒューちゃんはもう悪いことしないから安心してー!」
「リック!? それに彼女の人も……無事だったのか!?」
トムがひっくり返りそうな様子で叫び、俺はアスティを抱き上げて地面に降り立った。するとセリアが一目散に駆けてきた。
「おかえりなさいませ、我が王」
「ただいま。こっちは問題なかったか?」
「はい。討伐隊がドラゴンを追おうとしたので、リック様が戻るまで待つように私の方で言い聞かせておきました」
良い判断だ。
さすがセリアだな。
……と思っていたら、なぜかセリアの顔が赤い。呼吸も荒いように思える。アスティも同じことが気になったらしく、目を瞬いた。
「セリアさん、どうしたの……? なんか調子悪そうだけど」
「ああ、アリスティア殿、これは違うのです」
セリアは胸に手を当てて、上気した表情で俺を見る。
「私とスキルは繋がっているらしく、我が王が私のスキルを使う度、遠くにいてもそれが感じられて……体の芯が熱くなってしまいまして……」
「レオ?」
「や、知らなかった! スキルを聖剣化するとそんなことになるなんて知らなかったんだよ!」
アスティに『なんかえっちぃんですけど?』というジト目を向けられてしまい、慌てて『女神の嵐の聖剣』をセリアに返す。聖剣は光の塊になり、それをかざすとセリアの胸へと吸い込まれていった。
すると妙に熱っぽかったセリアが徐々に落ち着きを取り戻していく。
「ああ……何か残念です」
「残念ですって、レオ?」
「や、悪かったって! マジごめんって!」
セリア曰く、スキルが聖剣化している時は『嵐』のスキルは使えなかったらしい。聖剣化によって俺がスキルを借り受けていた形なのだろう。まあ、それはそれとして、
「セリア、討伐隊の状況は?」
「怪我人が34名。死者はおりません。現在、手分けして治療し、皆、状態は安定しています」
「よし、じゃあまずはその34人を治そう。ポーションの聖剣を……あ、いやいいか」
「およ? いらないの?」
気を利かせてポシェットからポーションを出そうとしていたアスティが手を止める。俺は軽くうなづき、ずっと腰に下げていたが使っていないロングソードに手をかけた。
「ポーションでもいいんだけどさ、確か……ドラゴンの血って回復効果があったよな?」
「『なん、だと……?』」
俺の言葉にヒュードランが青ざめる。
同時にセリアが冷静な顔で答えた。
「仰る通りです。古来より、ドラゴンの血は大いなる力の源と考えられておりました。回復効果どころか肉体の大幅強化にも繋がるはずです」
「『おい、待て待て待て! 一体、何をするつもりだ!?』」
「償いだ、償い。ダグラスの命令だったとはいえ、討伐隊のみんなをケガさせたのはお前だろ。だからちょっと血を寄越せ」
「『魔王……! 考え方が魔王そのものではないか!? お、おのれ……!』」
バサァと翼を広げ、ヒュードランは臨戦態勢になる。
「『貴様がその気ならば我にも考えがある! わかっているぞ? 強大な力を有していた聖剣はすでにないのだろう!? 聖剣のない貴様など――』」
「ドラゴンよ、一つ教えてやろう」
セリアがこれまた冷静に口を開いた。
その横で俺はゆっくりとロングソードを抜き、セリアの言葉が続く。
「我が王の通り名は『フェリックスの剣王』。この御方は鋼の剣一本で四大聖騎士を凌駕する」
「『……は?』」
「つまり私のスキルなどなくともリック様は最強だ」
銀の剣閃が疾走し、ヒュードランの胸辺りをサクッと斬った。ドラゴンの鱗はオリハルコンの次に頑丈だと言われているが、まあ俺がやれば簡単に斬り裂ける。
「成敗!」
「『ぎゃあああああっ』」
「あんま騒ぐな。あとでポーションの聖剣で治してやるから」
「『だったら我を斬る必要はないだろうが!? ないよな!? ないだろうよ!?』」
「言ったろ、償いだって。お前の血を使えば、みんな治るどころか強くなれるんだ。それぐらいの得がなきゃ申し訳ないだろ。あとお前、アスティのことさらったし」
「『まだ言ってるのか!? おい娘っ、アリスティアといったか!? 助けてくれ、アリスティアーっ!』」
「あー、うん、そうだね……」
スプラッターな状況にだいぶ引いていたらしく、アスティが引きつった顔で割って入ってきた。
「レオ、そこまで! さすがにヒューちゃんが可哀想」
「え、でもまだこいつがアスティさらったことの償いが足りてないし……」
「主旨変わってる。これだけ血の池になってたら、討伐隊の人たちを治すには十分だから」
「むう……」
まだ斬り足りないが、アスティがそういうなら仕方ない。俺はしぶしぶロングソードの血を払い、鞘へと納める。ちなみにアスティは引いているが、セリアは心なしかうっとりしていた。
「さすがです、我が王……」
「セリアさん……」
あれ?
アスティ、セリアにも引いてる?
まあ、ともかくまずは治療だ。
俺たちは手分けしてヒュードランの血を運び、討伐隊の怪我人たちを治していく。幸い、血の効果は抜群で、みんなすぐに回復した上、前より元気になった。
あとはヒュードランの背中から女性たちとダグラスを下ろし、ヒュードラン自身もポーションの聖剣で治してやった。あ、ダグラスの方は相変わらず瀕死を維持させている。こいつはアスティをさらった張本人だからな。
「『はぁ、本当に殺されるかと思ったぞ……』」
「我が王に逆らって命があるのだ。むしろ感謝するがいい、ドラゴンよ」
「そういえば、ヒューちゃんはこれからどうするの?」
よしよし、とヒュードランの前脚を撫でて慰めつつ、アスティが訊ねた。
「『ふむ? そうだな、魔術師との契約はすでに切れている。もはや我を阻むものは何もない。やはり再び天空の覇者として返り咲いて……』」
「ヒュードラン」
ふと思いつき、俺はドラゴンの巨体を見上げる。
「お前、俺の聖剣になれ」
「『は?』」
「レオ、どういうこと?」
「このまま野に放ってまた悪さしたらよくないだろ。だったら俺の聖剣にしちゃった方がいいんじゃないかと思ってさ。四大聖騎士にスキルを借りたら、その間、セリアたちはスキルを使えないようだし、ちょうどいいだろ?」
「『おいおいおい、それ……我の意思は!?』」
「関係ない」
無造作に手をかざし、スキル名を口にする。
「
「『おわあああああああっ!?』」
魔力の光が輝き、ドラゴンの巨体が俺の手のなかに収束していく。そうして瞬く間にヒュードランは聖剣になった。
柄の部分にドラゴンの顔の意匠があり、翼を広げたような形になっている。刀身には鋭い爪の模様が掘られていて、結構格好良い。
「おお、サマになってるじゃないか」
「『ふ、ふざけるな! なんという仕打ちをするのだ……っ』」
柄のドラゴンの目が光り、ヒュードランの声が聞こえてきた。
そもそもドラゴンはこの世界の最強種の一角だ。その力が数千倍になれば、セリアのスキルの聖剣とも互角以上の力になるだろう。
こうして俺は新たな聖剣をゲットした。
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