転生剣王、身分を隠して城下町でこっそり人助けをする~転生先の王族生活が不自由なので、聖女と一緒に「この紋章が目に入らぬか!」をして悪党から人々を救います~
第31話 レオ、アスティに前世の話を白状する
第31話 レオ、アスティに前世の話を白状する
「つまり……レオは生まれる前の記憶を持ってるってこと?」
アスティの問いかけに俺はすぐにはうなづけなかった。
実際、その通りなんだ。でもいざとなると躊躇ってしまった。
風は速く、周囲には雲が流れていく。
ここはヒュードランの背中の上。
2週目の俺が去った後、俺たちは女性たちや瀕死のダグラスと一緒にヒュードランに乗り、王都へ向かい始めた。
その途中、俺はアスティに諸々の報告をした。
まずは俺が転生者であること。
次にフェリックスの女神がアスティにそっくりだったこと。
その二つを聞いて、アスティが開口一番に言ったのが、今の前世の記憶に関する言及だ。だいぶ間が空いてしまったが、俺はどうにか口を開く。
「……ああ。前世で俺はこことは違う世界に生きてた。今まで黙ってて……ごめん」
「ふみゅ」
「赤ん坊の頃から俺には自我があったんだ。前世から継続した自我がさ。だからひょっとすると、俺は厳密にはレオンハイド・ジータ・ウィル・ハルバート・フェリックスじゃないのかもしれない。なんていうか、レオンハイドに乗り移った亡霊みたいな……」
言ってて胸が軋んだ。
つまり俺はレオンハイドのフリをして、ずっとアスティを騙してたことになるんじゃないか?
そんな疑念がふつふつと湧いてくる。
「いやそんなわけないでしょ」
「あたっ」
後ろからチョップされた。
ちなみに俺はヒュードランの首筋にいて、アスティは馬に2人乗りする時のような形で背後にいる。
「生まれる前の記憶があったって、レオはレオだよ」
「……そう思ってくれるのか?」
「当たり前でしょ。だってあたしと出逢って、あたしのこと好きになって、ヒューちゃんや魔術師さんに怒髪天になってるのはレオだもん。違う?」
「や、それは、まあ……」
さらっと『あたしのこと好きになって』とか言われると、素直にうなづいていいか迷ってしまうんだが……いやまあ、もう隠せてないのは重々承知だが。
「だから心配しないで」
ふわりと背中に抱き着かれた。
柔らかな感触が背中いっぱいに広がる。
「……っ」
「レオがどこの誰だろうと、あたしと一緒に過ごしてきた時間は本物だもん。だからあたしが保証してあげる。どんな記憶があろうと、あなたはあたしのレオだよ」
「…………」
軋んでいた胸が温かくなるのを感じた。
腰に回された手にそっと触れる。
「……ありがとな」
「えへへ、どういたしましてー」
もう不安はない。
前世の記憶があろうとも、俺はこの世界の人間だ。
何があったって、アスティとこの世界を守ってみせる。
「ちなみにアスティさんや……」
「なんじゃらほしい? レオさんや」
「胸が……当たってるんですが」
「離れる」
「待って! 離れないでくれ! 頼む! お願いだから! 男子としてこの幸せを噛み締めたい!」
「だったらなんでわざわざ言っちゃうのー!? いい雰囲気だったからぎゅっとしてあげたのに、そんなえっちなこと言うなんてサイテー!」
「いやだって言わないと、逆にエロい奴に思われるかなって怖くなったんだよ! 分かるだろ、この気持ち! な? な?」
「ぜんぜんわかんなーい! はい、離脱!」
「ああああ……っ」
本当に背中から離れられてしまった。
ちくしょう、哀しい、悔しい。
「もー、本当にえっちなんだからレオは」
手で背中をぺしぺしされた。
ううん、これはこれで嬉しくないわけではない。
「で、真面目な話だけれども」
「あ、真面目な話に戻るのか……」
「残念そうな顔しないのー」
また叱られてしまった。
仕切り直すようにコホンと咳払いし、アスティは続ける。
「えっと、大人のレオの話だと、この世界って……ループ? してるんだよね?」
「だな」
ループの概念については前世の話をする前に一緒に説明してみた。アスティもすでにおおよそ理解していると思う。
「じゃあ、レオの前世の世界は? この世界と一緒にループしてるの?」
「……む」
それは盲点だった。
俺はあご先に手をやり、思考する。
「ループは……うん、してるだろうな。もし前世の世界がループしてなければ、2週目の後、3週目の俺がこうして存在してることに矛盾が生じる」
「じゃあ、二つの世界はセットなんだ?」
「…………」
アスティへの相槌も忘れ、つい思考に没頭してしまう。
確かにアスティの言う通り、二つの世界は並行して存在していると考えていいだろう。つまり時間軸は同一なのだ。1週目と2週目のこの世界が滅びた時、あっちの世界もまた滅びている。
なんか壮大な話になってきたな……。
気になるのは何によって世界が滅び、何によってループしているのか、だ。滅びの原因が魔王でないとすれば、おそらくは2週目の俺が言っていた『
「まあ、2日後に聞くしかないか……」
奴は2日後に王宮に来ると言っていた。
答え合わせはその時でいい。
「レオー?」
アスティが後ろから俺の頬をつんつんしてきた。おかげで返事をしてなかったことに気づけた。
「ああ、わるい」
「あとさ、女神様があたしにそっくりだった、って話だけども」
「そうだ、それな」
「ひょっとして未来のレオと同じように、女神様が未来のあたしってこと?」
「たぶん、そうだと思う」
2週目の俺はアスティと同じブロンドだった。
あれはおそらく2週目のアスティから力をもらったからだろう。ひょっとしたら俺も力の量によっては同じような髪になっていたのかもしれない。
2週目の世界が滅んだことで、21歳の俺は『狭間』とやらに行ったのだろう。そして21歳のアスティは女神となってこの世界を作った。
「あ、そうか」
思考の流れのなかで答えが見つかった。
「3週目のループを生み出したのは、アスティってことか」
もともとフェリックス王国には女神によって歴史が始まったという伝説がある。その女神がアスティだとすれば、この世界を作って3週目のループを始めたのはアスティだ。
「え、あたし?」
「いや未来のアスティ」
「あたし、すごーい!」
や、無邪気に喜んでるが、それ世界崩壊っていう大バッドエンドありきのことだからな?
そんなことを思っていると、地上の方から喧騒が聞こえてきた。見下ろすと、冒険者たちの討伐隊がいるのが見えた。
「おい、ヒュードラン。一度、下りろ」
「『……なあ我、ちょっと気になってたんだが……当たり前のように命令してくるが、貴様、我の主にでもなったつもりか?』」
「羽むしるぞ?」
「『よし、すぐ下りる! 掴まっていろよ、人間たち!』」
バサァと翼をはためかせ、ヒュードランは討伐隊の方へと向かう。
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