転生剣王、身分を隠して城下町でこっそり人助けをする~転生先の王族生活が不自由なので、聖女と一緒に「この紋章が目に入らぬか!」をして悪党から人々を救います~
第23話 負けドラゴン、2人を乗せて空を飛ぶ
第23話 負けドラゴン、2人を乗せて空を飛ぶ
「『……えー、まず我の名はヒュードラン。栄えあるドラゴン族の末裔である』」
ドラゴンは後ろ脚を折り畳み、器用に正座してそう言った。
目の前には『女神の嵐の聖剣』を地面に突き刺し、腕組みをしている俺。
「お前の名前なんてどうでもいい。次!」
「『はい……』」
「もー」
ドラゴンはうな垂れ、そんな俺たちのやり取りを見て、アスティは呆れ顔。
「『我の主人は人間――深淵の魔術師と呼ばれる男だ』」
「深淵の……」
「……魔術師?」
俺は眉を寄せ、アスティと顔を見合わせる。
なんとなく聞き覚えのある通り名だったからだ。
「っていうかお前、人間に飼われてるのか。ドラゴンのくせに」
「『ぐぬう、痛いところを……っ。我とて好きで契約したわけではない』」
本人曰く、ヒュードランはそもそも野生のドラゴンだったらしい。しかしある時、その深淵の魔術師の罠に掛かり、強制的に契約を結ばされてしまった。
「『これが忌々しい契約の紋だ』」
ヒュードランの腹には確かに魔術的な紋様が浮かんでいる。
「『主の目的は清き乙女を幾人も集めること。我はその担い手として契約させられた。人間共を襲い、主が満足する数の乙女を集めれば、契約が切れて晴れて自由の身になれる』」
「それで北の街道で暴れてたってわけか」
「深淵の魔術師は女の子たちを集めてどうするつもりなの?」
「『わからん。だが主は何らかの魔術的儀式を行うつもりだ。捕えた娘たちを贄としてな』
「そんな、贄だなんて……」
アスティが表情を曇らせる。
一歩間違えたらアスティがその贄になっていたかと思うと、俺としてはハラワタが煮えくり返る思いだ。
「『な、なぜ我を射殺さんばかりの目で睨むのだ!?』」
「睨んでねえよ。元からこういう目だ」
「『絶対違うだろ!? 明らかに剣の柄をニギニギしてるではないか!? 斬るのか!? 我を斬るつもりなのか!?』」
ったく、と吐息をもらし、俺はアスティの方を向く。
「深淵の魔術師って聞いたことあるよな?」
「うん。確か……王国の魔術同盟を追放された人だっけ」
冒険者たちに冒険者ギルドがあるように、魔術師たちには魔術同盟がある。王宮に仕える宮廷魔術師も魔術同盟から排出されるので、城とは何かと懇意の仲だ。当然、同盟内部の情報も自然に伝わってくる。
深淵の魔術師といえば、確か何年か前に生贄を多用した違法な魔術実験を行い、追放された魔術師だったはずだ。
「悪の魔術師が追放されてもまだ怪しい魔術をやろうとして、人さらいをしてるってわけか」
「『我以外にも主の使い魔とされたモンスターはいる。すでに幾人もの乙女が主の工房に集められているはずだ』」
「レオ、だったら……っ」
「ああ」
アスティの言葉に俺は大きくうなづいた。
「その人たちを助けにいこう。――ドラゴン、魔術師の工房まで案内しろ」
「『なぁっ!?』」
ブレスでも吐きそうな勢いでヒュードランは仰け反った。
「『しょ、正気か!? 我以外にもモンスターがいると言っただろう!?』」
「ああ、言ってたな」
「『いいか?』」
ヒュードランは脂汗を流してシリアスな顔をする。
「『主を守護するは最強の六体の使い魔! 貴様ら人間の尺度で言えば、我を含めて六体すべてがS級だ! 主の工房には残り五体のS級モンスターがひしめいているのだぞ!?』」
「へー」
「『へー!?』」
「言っちゃなんだけど」
俺は地面に刺さった『女神の嵐の聖剣』を引き抜く。
「意味あるのか、それ?」
「『…………おおう』」
聖剣。
俺。
正座させられている自分。
それらを順に見て、ヒュードランはがっくりした。
「『確かに……魔王相手では勝てる気がしない』」
「魔王じゃないっての」
ヒュードランに伏せの姿勢を取らせ、俺とアスティはその背中に乗った。城の馬にはよく乗ってるけど、ドラゴンの背に乗ったのはさすがに初めてだ。ヤバい、ちょっと楽しいかもしれない。
「あ、レオがちょっとワクワクっとしてる」
「いやいやしてねえし!」
「ほんとー?」
「本当だって」
「ならいいけど……よっと」
「――っ!?」
アスティが後ろから腰に手を回してきた。や、うん、飛んだら危ないし、正しい行動だな、うん。
「えっちな期待とかしたらダメだからね?」
「し、しねえですし!」
「絶対だよー? ……んー、それにしてもレオの背中、大きいね」
「ちょ……っ」
不意打ちで背中をぺたぺたと触られ、心臓が跳ね上がってしまった。期待するなとか言いながら、なんでこういうところは無防備なんだよ!?
「『あのー、我の背中で逢瀬を重ねないでほしいのだが……』」
「か、重ねてねえし! ほら飛べ、ドラゴン! 向かう先は深淵の魔術師の工房だ」
「よろしくね、ヒューちゃんっ」
「『ヒュ、ヒューちゃん? それは我のことか?』」
「うん! ヒュードランだからヒューちゃん。可愛いでしょ?」
「『まったく……我を恐れなかったり、我を打ち落とすほどに強大だったり、かと思えば親しげに接してきたり……面白い人間共だ』」
バサァッと大きな翼がはためいた。
「『良かろう! ならば深淵なる工房へと連れていってやる。我が主を見事討ち果たしてみせるがいい!』」
「おお、飛んだっ」
「わーっ、すごーい!」
土煙を上げ、ドラゴンの巨体が空へと飛び立つ。
かくして俺たちは諸悪の根源たる、魔術師の工房へと向かうのだった。
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