転生剣王、身分を隠して城下町でこっそり人助けをする~転生先の王族生活が不自由なので、聖女と一緒に「この紋章が目に入らぬか!」をして悪党から人々を救います~
第22話 レオVSドラゴン(ベッコベコのボッコボコ)
第22話 レオVSドラゴン(ベッコベコのボッコボコ)
槍状にした突風をぶち当てると、空中でドラゴンは悲鳴を上げて仰け反った。
その勢いでアスティを手離したので、俺は風を操って急行する。
「アスティ、大丈夫か!?」
お姫様だっこの形で彼女を抱き留めた。
「あ、うん、大丈夫。レオ、それよりもね――」
「良かった! ドラゴンに攫われた時はどうなることかと……!」
「――はわぁ!?」
思わずアスティを全力で抱き締めた。
「ちょ、ちょちょちょ、レオ! 落ち着いてっ」
「落ち着いていられるかよ! 俺は心配で心配で……っ」
「わかったっ。わかったから……!」
アスティは真っ赤になってバタバタする。
「あたし、平気だよ! レオが助けにきてくれるってわかってたから別に怖くなかったし、どこもケガしてないしっ」
「……そっか。本当に良かった。じゃあ……」
ス……ッと温度の消えた目で獲物を見据える。
「あのクソトカゲを三枚に卸すか」
「それ! 別に怖くなかったし、ケガもしてないけど、心配だったのはそっちの方!」
「覚悟しろや、トカゲ野郎ッ!」
「だから話聞いてってばー!」
俺の右目が輝き、突風が巻き起こる。
アスティを抱いているので聖剣は振り下ろしたりしない。むしろ意志だけでもスキルを操る。
ドラゴンは俺の敵意に気づき、翼をはためかせて体勢を整えようとしていた。
「『ぐぅ、人間風情が調子に乗るな……よぎゃああああああっ!?』」
鞭のようにしなった突風が炸裂。
ドラゴンの肌を鱗ごと引き裂いていく。
「『ちょ、待て……! まだ我は攻撃準備ができていないから待て!』」
「アスティが『待って。あたしを攫わないで』と言った時、お前は待ったのか?」
「『いやその娘はそもそもそんなこと言ってな……いぎゃあああああっ!?』」
天と地から稲妻が迸り、斜めの十字の形でドラゴンを撃ち抜いた。
「『か、回復が追いつかん……! 馬鹿な!? ドラゴンの生命力をもってしても回復しきれぬ攻撃力だというのか……!?』」
「そうだ。お前がアスティに与えた心の傷は回復しない。これから毎夜、お前に攫われたことを思い出してアスティは悪夢に苦しむだろう。だからお前も苦しめ。癒えない傷に悲鳴を上げろ」
「『いやその娘、本人も言ってるがわりと元気そうだったぞ!? 我に怯えてる様子もなかっ……たぎゃああああああ!?』」
稲妻と暴風が巨大な壁のようになって、上からドラゴンに直撃。地上へと真っ逆さまに墜としていく。
「アスティは俺に心配をかけまいと気丈に振る舞ってるだけだ。でも心では小鹿にように震えている。俺にはわかる」
「『いやわかってない! 貴様、絶対にわかっていないぞ!? その娘、正直、貴様を信頼しきってまったく怯えもしていなかっ……たぎゃあああああああっ!?』」
「トカゲ風情がアスティを語るな! 地面で汚ねえシミになってろッ!」
ダメ押しでさらに暴風を叩きつけた。ドラゴンは倍の速度となって地面に激突。盛大な土煙が上がり、地響きが巻き起こる。
「『がふっ……ごは……かつての魔王より……残虐だぞ……貴様……』」
俺の見下ろす先、ドラゴンは地面でピクピクと痙攣していた。S級とも呼ばれたドラゴンが無残な有様だ。だがまったく同情する気にはならない。
「トドメだ。選ばせてやる。稲妻で頭を吹き飛ばされるのと、烈風で心臓を叩き潰されるの、どっちがいい?」
「『……しょ、正直……どっちも勘弁してほしいのだが……』」
「わかった。両方を同時にだな」
「『おおい!? 慈悲の欠片もないのか、貴様ぁ!?』」
両目が飛び出さんばかりにドラゴンが叫ぶ。
しかし慈悲などあろうはずもない。
アスティを傷つけようとした奴はベッコベコのボッコボコにする。
子供の頃からそう決めてるのだ。
白銀色の聖剣が最大級の輝きを放つ。
そうして俺が全力攻撃をつぶけようとした矢先、アスティが声を荒らげた。
「あーもう!」
お姫様抱っこ状態で顔を近づけてくる。
「ほっぺにキスしてあげるからいい加減止まりなさい!」
「へっ!?」
突然の宣言に驚いた瞬間、視界にブロンドの髪が舞って――チュッと頬にキスされた。
「――っ!? ?? ――!!」
むちゃくちゃ混乱し、一気に力が抜けた。シュウウウッと煙が上がって魔力の光が消え、俺はゆるゆると落下して、地面に着地。
するとアスティは俺の腕からすたっと下りて、背中を向けた。しかしこっちの混乱は収まらない。まだほのかに熱が残る頬を押さえ、俺は呆然とする。
「ア、アスティ? アスティさん……?」
「冷静になった?」
「あ、はい」
つい従順にうなづく、俺。
一方、アスティは赤い顔でチラッと肩越しに振り向く。
「子供の頃から考えてたの。レオがあたしのことで頭に血が昇っちゃった時、どうすれば冷静になるかなって。今までは恥ずかしくて出来なかったけど……っていうか、今も恥ずかしいけど、とにかくこれで話を聞いてくれるよね? 反論はナシだから!」
「イ、イエッサー」
つい前世の言葉で返事をしてしまった。
そのままブンブンとうなづく。
「俺。聞く。アスティの話。聞く。ちゃんと。聞く。俺」
頭がついていかず、オークみたいなしゃべり方になってしまった。
「『おお……魔王のようだったこの男が驚くほどに大人しくなったぞ……。娘よ、お前は猛獣使い、いや魔王使いか……っ』」
「あ? 誰が魔王だ、コラ」
「『ひぃっ!?』」
ギンッと睨むと、ドラゴンはでかい体を縮めて震えた。しかし俺はすぐさまアスティにぺしっとチョップされてしまう。
「めっ。可哀相だから怖がらせないの」
「……やっ、だってよぉ……」
「だってじゃありません」
「……わかったよ」
「『おお、やはり魔王使い』」
「ああん?」
「『ひぃっ!?』」
「もー、繰り返さないの!」
腰に手を当てたアスティに叱られ、俺とドラゴンは同時に体を縮こまらせる。いやなんだ、これ?
「なんかね、ドラゴンさんにも何か事情があるみたいなの。『契約だから』とか『晴れて自由の身だ』とか言ってたし。だからそれ聞いてあげようよ」
「事情ぉ……?」
俺は思いきり眉を寄せる。
正直、事情なんて知ったことか。
アスティを攫おうとしたこいつは圧倒的にギルティだ。しかしまたアスティに叱られては堪らない。
「言えよ。つまんねえ話だったら羽むしるからな」
「『ひぃっ!?』」
「だから怖がらせないの」
ぺしっとまた後頭部にチョップをされる俺だった。
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