第20話 セリアVSドラゴン
四大聖騎士とはフェリックス王国を守護する、最強の四人の騎士のことだ。四人それぞれが強大なスキルを持ち、それぞれの騎士団を率いている。
聖騎士の名は王国を支える、一柱である証。
聖騎士セリア・ルイタークは銀色の髪をなびかせて一歩を踏み出した。視線の先には空を覆わんばかりのドラゴンの巨体。それも今し方、凶悪なブレスで討伐隊に大打撃を与えたばかりである。
さすがに心配になったのか、アスティが俺の服を引っ張る。
「ね、ねえ、あのドラゴン、すっごく強そうだよ? セリアさん、大丈夫……?」
「ああ、心配ないさ」
俺は間髪を容れずうなづいた。
当初は俺がドラゴンの相手をして、セリアには討伐隊を守ってもらおうと思っていた。しかしその役目が逆転しても問題はない。
「お気遣い、痛み入ります。アリスティア殿」
細身のロングソードが流れるような仕草で鞘から抜かれる。
「ですが、どうかご安心を。この身は我が王の剣です。竜の一匹や二匹に折られるものではありません」
セリアの体から膨大な魔力が迸る。するとドラゴンも異変に気づいたようにこちらを向いた。
――グオオオオオオオオオオッ!!
翼を広げて急旋回。
咆哮を上げて突っ込んでくる。
アスティが思わず「きゃっ」と声を上げ、一方、俺は冷静に告げる。
「セリア、撃ち落とせ」
「――御意」
まるで冬空の三日月のように、ロングソードが鋭く閃いた。
そしてスキルの名が告げられる。爆発的な魔力の光と共に。
「
前髪に隠れていた、セリアの右目が青く輝く。
魔力の光と同時に、とてつもない暴風が吹き荒れた。それによって冒険者たちの道具が巻き上げられ、アスティの髪は乱され、空のドラゴンさえも姿勢を崩す。
青の右目で見据え、セリアが鋭く剣を振り下ろした。
すると暴風のなかに魔力の光が瞬き、一条の稲妻となってドラゴンを撃ち抜いた。
――グギャアアアアアアアアッ!?
まるで稲妻という一本道が空に描かれたような光景だった。ある種、幻想的な美しささえ感じさせる。悲鳴のような咆哮を上げてドラゴンは落下。間欠泉のごとき土砂を巻き上げ、そのまま荒野に墜落した。
銀色の髪をかき上げ、セリアはロングソードを鞘に納める。そして若干のドヤ顔で俺の方を振り向いた。
「ご期待に沿えましたでしょうか?」
「ああ、完璧だ。ご苦労さん」
「光栄の至り」
セリアは恭しく一礼。
途端、アスティが「すっごーい!」と目を丸くし、冒険者たちも喝采を上げた。
「やった! あのお姉ちゃんがやってくれたぜ!」
「ドラゴンを一撃……! しかもあの威力ってことは、魔術じゃなくてスキルだろ!?」
「やっぱり『雷帝のセリア』だよな!? すみません、サイン下さい!」
冒険者たちがわっと集まっていく。
しかしセリアは冷静に対処していた。
「違います。私は『雷帝のセリア』ではありません。私の名はセ……? いやサ……? はたまたス……?」
自分の偽名覚えてないのかよ。
いやまあ朝、適当に考えといてくれ、としか言ってなかった俺も悪いんだが。
ちなみに隣ではまだ俺の服を摘まんだまま、アスティが目を白黒させている。
「知らなかった。セリアさんってあんなに強かったんだ……もちろん聖騎士だから強いんだろうとは思ってたけど、ドラゴンもあんな簡単にやっつけちゃうなんて」
「まあな。セリアのスキルは『嵐の具現化』だ。そりゃ強力だよなって話さ」
「あらし? 『雷帝のセリア』なのに?」
「そう、セリアは嵐を自由に操れる。だから風とか気圧なんかも操作できる。ただ、あの稲妻の一撃がめちゃくちゃ目立つから『雷帝』の通り名で呼ばれるようになったみたいだな」
王国の騎士でありながら、通り名に『帝』なんて字が付いてしまうくらい、セリアは強い。本当、味方で良かったと思う。俺も『フェリックスの剣王』なんて呼ばれているが、ただの剣一本ではセリアのスキルには苦戦するはずだ。今でこそ女神のスキルもあるが、剣技だけでは本気のセリアは難敵である。
「とりあえずドラゴンを無事倒せて何よりだな」
「そうだね。……あっ、そうだ! 前の方にいた冒険者さんたちの手当てをしなきゃ!」
はっと気づいた様子でアスティが走りだす。
「あ、おい。アスティ!」
確かに隊列の前方にいた冒険者たちはドラゴンのブレスで吹き飛ばされてしまっている。地面に倒れている者も多く、今すぐ治療が必要だろう。アスティは回復呪文が使えるので、急ぐ気持ちもよくわかる。
しかしドラゴンが墜落したのも隊列の前方だった。
セリアの暴風によって吹き飛ばされたので、ドラゴンは今、冒険者たちの近くに倒れている。戦闘要員ではないアスティが近づいて万が一のことがあってはいけない。
そう思った、矢先のことだった。
ドラゴンがわずかに動き、その瞳に光が戻った。
「『……グゴゥ……お……おのれ……人間風情が……っ』」
しゃべった。どこかくぐもった、地鳴りのような声だった。
確かに人語を介するという事前情報はあった。
しかしドラゴンがしゃべったことに驚いたのか、アスティは「え……っ」とその場で固まってしまう。次の瞬間、ドラゴンが前脚でアスティを捕まえた。
「きゃあ!?」
「アスティ!?」
「アリスティア殿!」
「『動くな、人間共! この娘を握り潰すぞ!?』」
俺とセリアはそれぞれに剣を抜こうとしていた。しかしドラゴンの脅しによって動きを封じられてしまう。
「『……それでいい。清き乙女を献上せよ、というのが我が主の命令だ。この娘は主のもとへと連れていく。我が去るまで決して動くな、人間共よ』」
ドラゴンは大きく羽ばたき、アスティを握ったまま大地から飛び立った。その手のなかでアスティは――泣くでもなく怯えるでもなく、なぜかただただ顔を引きつらせている。
「あ、あのー、ドラゴンさん? 事情はよくわかんないけど、これはよくないと思うの」
「『ふはは、恐ろしいか! 小娘よ!』」
「や、ううん、そうじゃなくて……レオの前であたしに危害を加えるのは一番やっちゃいけないことっていうか……昔、謀反を起こそうとした大臣さんとか、お城の訓練場から逃げ出したゴブリンとか、それはもう凄惨なことになっちゃったんだ。だから本当にやめた方がいいと思うの……」
「『何を言っているかわからんが、貴様は主の贄となるのだ! ふははは!』」
そのままドラゴンは悠々と去っていった。
アスティは最後まで俺の方を見て、「レオ! 穏便にね? できるだけ血みどろ展開にはならない方向でね!」と叫んでいた。
やがてドラゴンの姿が空の彼方へと消え、完全に見えなくなった。
トムやセリアが俺の方へ駆けてくる。
「なんてこった……っ。まさかリックの想い人の子が攫われちまうなんて……!」
「申し訳ありません! 私の詰めが甘かったばかりに……っ。初撃で首を刎ねておくべきでした……っ」
2人が何か口々に言っているが、俺の耳には届かない。
冒険者たちも慌ただしく動いているが、やはり俺の目には映らない。
俺はただ、ただ……。
――ブチィ!
人相が変わるぐらい、アスティをさらったクソトカゲにブチ切れていた。
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