第4話 ポーションで聖剣を作ってみるぞ
「……うぅ、ねえレオ、起きてよ、レオぉ……っ」
誰かの声が聞こえる。
今度こそ間違いない。
これはアスティの声だ。
しかも泣いてる。
ああ、そうか。
俺が死んだせいか。
「アリスティアや。気持ちは分かるが……もうレオ王子を休ませてあげなさい。お前がこうしてしがみついていたら、王子はいつまで経っても土の中で眠ることができないのだよ」
これは……ああ、レインフォール大神官の声か。
アスティの父親だ。
「やだ! レオは死んでないもん! お墓になんかいかせない! レオがお墓に入るなら、あたしも一緒に土に埋まる……っ」
「ワガママを言うんじゃない。これ以上、陛下たちを困らせてはいけないよ」
なるほど、まわりには父上たちもいるらしい。察するに城のどこかの部屋だろう。俺の葬儀を始めるために移動させようとして、アスティが反対しているようだ。こりゃとっとと起きないとな。
「……って、痛っ!? 体中痛ぇ! お、起きられねえ……!」
「ふえ!?」
「レ、レオ王子!?」
「息子よ!? おお、息子が起きたぁっ!?」
いや父上、まだ起きてねえから。
なんとか身じろぎしたが、体中痛くて起き上がることができない。
かろうじて瞼を開いてみたら、やっぱり城の部屋のなか、それも俺の自室だった。天蓋付きのベッドに俺は寝かされ、父上や臣下たちがまわりを囲んでいる。アスティはベッドの俺にしがみついている状態だ。それがまた痛い。なんか傷口に触れてるっぽい。
「ア、アスティ……ちょっと離れろ。普通に傷口に当たってる。むっちゃ痛い……」
「レ……レオ? しゃべってる? あたしに話しかけてる? うわぁぁぁぁっ、レオが生き返ったーっ!」
「ぎゃあああっ!? だから触るなって!? 落ち着け、抱き着くな! 死ぬ! 嬉しいけど普通にまた死ぬ!」
それからはもう大騒ぎだった。
普段は温厚なレインフォール大神官が娘を羽交い絞めにして遠ざけ、父上が自ら医者を呼びに走り、母上はとにかく号泣、臣下たちも涙を流してフェリックスの女神に感謝を叫んだ。
……女神。ああそうだな、女神か。
死の淵でみた、ただの夢。
そういう可能性もある。
だが俺の胸のなかには妙な確信があった。あれはまぎれもない事実だ。俺のなかの何かがそう告げている。
「もう泣くなって。お医者先生も言ってたろ? もう峠は越えたから、俺は大丈夫だって。だからそんな気にすんな」
「でも、でもぉ……っ。あたしを守ったせいでこんな大怪我して……ごめんね、本当にごめんね、レオ……っ」
目が覚めてから半日が経った。
当然ながら城の専属医は『奇跡です……』と驚いていた。
しかし俺は完全に死んだはずの状態からどうにか生き返り、状態も安定している。一瞬、アンデットになったのではないかと心配もされたが、それもアスティの父親のレインフォール大神官が調査呪文を使い、正式に否定してくれた。
ただ全身に負った傷は王国トップクラスの回復呪文でも完治させられなかったそうだ。お医者先生の見立てでは全治1年。おそらく後遺症も残るだろうとのこと。
おかげでアスティは気に病んでしまい、半日経った今も俺のそばから離れない。せっかく生き返ってもこれじゃあ意味がないんだけどな。俺はアスティに笑っていてほしいんだ。
「……ん、いや待てよ?」
ふと思い出したのは、女神の言葉。
『いいからもらって行きなさい! これがあったら王国の人たちをたくさん救えるし、生き返ったら早速使う機会だってあるんだから!』
あれは確か……スキルなんていらない、と言った俺に対しての言葉だ。早速使う機会がある……か。
「アスティ、ちょっと体起こしたいんだ。手伝ってくれるか?」
「あっ、うん! お水? お水飲みたいの?」
「や、大丈夫だ。そうじゃない」
アスティに手伝ってもらってどうにか上半身を起こし、慌てて水差しを手に取った彼女を止める。
「ちょっとステータスを開こうと思って」
「へ? ステータス?」
ぎくしゃくと動き、俺は目の前で手を横に振る。
すると小さな光が舞い、輝く文字や数字が現れた。
――――――――――――――――――――
◇レオンハイド・ジータ・ウィル・ハルバート・フェリックス
HP:8
MP:250
敏捷:190
攻撃:225
防御:180
〇所持スキル
・
――――――――――――――――――――
ステータスというのは魔術における、初歩の呪文だ。使うと、自分の状態をこうして文字や数字として確認することができる。俺は宮廷魔術師から魔術の手ほどきを受けていて、おかげでこうしてステータスを確認できるんだが……うお、HPが8って! こりゃ確かに全治1年だな。
ただ今重要なのは、『所持スキル』の欄。
以前の俺のステータスにこんな項目はなかった。
「だ、大丈夫、レオ? 自分のステータス見て、ショック受けちゃった? やっぱりHPとかすごく少なくなってるよね……?」
自分のステータスは自分しか見ることができない。アスティの目にはぼやけた光としか見えていないはずだ。不安そうなアスティに対し、「わるい、ちょっと集中させてくれ」と断り、俺はステータスに手を伸ばす。痛てて……でもここが頑張りどころだ。
指先で『
「……ははぁ、なるほどな」
やっぱり俺が女神に会ったのは夢ではなかったらしい。こうしてスキルが現れたのが何よりの証拠だし、それに女神の言っていた通り、これは今すぐ使うべきものだ。
「アスティ、驚かないで聞いてくれ」
「え? な、なに?」
「俺、スキルが使えるようになったんだ」
「へ?」
「スキル名は『
「あ、ああ……頭打ったせいで、レオがなんかおかしなこと言い始めたぁ……っ」
じわっとアスティの瞳にまた涙が浮かんでくる。
失礼だな、おい。
いやでもそう思うのももっともか。
これはもう見せた方が早いだろう。
「そこにあるの、ポーションだよな?」
「え、うん、そうだけど……え、何するの!?」
俺が包帯だらけの手を伸ばし始めたので、アスティが目を見開く。ベッドのそばにはチェストがあり、水差しとポーションの瓶が置かれていた。どうにかして瓶に触れ、俺は――スキルを発動。
「スキル発動、
直後、魔力の光が輝き、瓶からポーションが勝手に溢れてきた。青い液体は俺の手へと導かれ、ブルーサファイアのような美しい刀身の剣へと姿を変える。
「ええっ!? ちょ、なに!? なにこれ!?」
「俺のスキルで創造したポーションの聖剣だ。で、これをこうする……っと!」
ちょっと怖かったが……俺はポーションの聖剣を自分の胸へと突き刺した。
「な、何してるのーっ!?」
アスティが絶叫。
しかし直後にブルーサファイアのような光が弾ける。そして――。
「治った」
「へ?」
「ポーションの回復効果を何千倍にもした聖剣の力で治った」
さっきまでの痛みが嘘のように無くなっていた。俺は軽々とベッドの上に立って、全身の包帯をほどいて放り投げる。同時にアスティを安心させるために親指をグッと立てた。
「治った」
「な、治ったああああああああっ!?」
アスティのその叫び声は城中に響き渡っていたという。
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