アリスの悪夢とドーラ

3.変化の兆し

　夏の日々が穏やかに流れる中、ドーラに少しずつ変化が現れ始めました。最初は些細なことのように思えたのですが、やがてそれは明らかな不穏な兆しとなって私たちの日々に影を落とし始めました。

　ある朝、朝食の時間になってもドーラの姿が見えませんでした。

「ドーラはまだ？」と私がメイド長に尋ねると、「ドーラ様は今日も少し遅れるようです」と答えました。

　ドーラは以前はいつも私たちより早く起きていたのに、最近は朝が弱いようで、ほとんど朝食に参加しなくなっていました。

「大丈夫かしら？」と私は心配になりながら、ドーラの部屋に向かいました。

　ドアをノックすると、彼女の弱々しい声が返ってきました。

「入っていいわ」

　部屋に入ると、ドーラはベッドに座って窓の外を見つめていました。彼女の顔色は以前よりも一層青白く、目には疲れが溜まっているように見えました。

「大丈夫？」と私が尋ねると、彼女は弱々しい笑みを浮かべながら「大丈夫よ、ただ少し疲れているだけ」と答えました。

　しかし、彼女の様子は明らかに普通ではありませんでした。ドーラの疲れは、ただの睡眠不足では説明がつかないものでした。

　その日の午後、私たちは庭園を散歩しましたが、ドーラの様子は一向に良くなる気配がありませんでした。

「最近、うまく眠れないの」と彼女が打ち明けました。

「夢を見るの。でも、その内容は覚えていないの」

　ドーラの言葉に、私はステファニーが見た夢が頭をよぎりました。

「また、夜に夢を見たら、教えてね」と私が言うと、彼女は静かにうなずきました。

　しかし、その時、彼女の目には不安と恐れが隠されているように見えました。ドーラの変化と彼女が見ている夢には、何か深い意味が隠されているように感じました。

　その夜、私は一人で星空を見上げながら、ドーラのことを思い、彼女が抱える不安の原因について考えました。ドーラの変化は、辺境伯領の夏に思わぬ影を落とし始めていたのでした。