第6話
「お待たせしました。ご案内します」
林に先導されて、志村たちはマンションの入口に入った。左手はオートロックのガラス扉で、入居者のみが先に進めるようだ。右手にあるエレベーターに皆で乗り込んだ。このエレベーターは2階までしかなく、すぐに降りなければならなかった。
「後楽園不動産の林です。705の鍵をお願いします」
林は2階に常駐しているらしいおじさんに声をかけた。そのおじさんから鍵を受け取って、オートロックを解除して、別のエレベーターまで進んだ。その別のエレベーターは入所者のみが利用できるエレベーターで、1階で左手に進んだ先にあるエレベーターと同一のものだ。
「さあ、このエレベーターに乗って、7階まで行きましょう。先ほどの管理人さんは日替わりで業者から派遣されていて、24時間常駐です。実は宅急便は、管理人さんが2階で受け取ってくれるのです」
「それって、すごい便利ですね。なんかコンセルジュみたい。不在の時でも、宅急便を代わりに受け取ってくれるということですよね」
美緒が、好反応を口にして、志村に対して微笑んだ。
「昔、このマンションが建設された当時のバブルの時は、コンセルジュって呼ばれていたらしいです。困ったことがあったら、何でも相談できるそうです。7階です。こちらで降りてください。」
エレベーターを降りて、目当ての部屋まで移動した。中央は吹き抜けになっており、その周りが通路となっている。林が705室の前で鍵を開けた。ドアを開けると、真正面はフローリングの廊下になっており、玄関の右手はサイドボード、一歩進んで左手のドアを開けると洗面台と浴室、もう一歩進んで左手のドアを開けると、6畳ほどの寝室があった。廊下の先には大きな12畳のリビングダイニングがあり、全面ガラス張りで眺めが良かった。全体的にしっかりした造りで高級感があり、収納もたっぷり。壁も厚い印象で、隣や上下階の物音は聞こえない。
「やっちゃん、ここ、めちゃ良いね」
美緒がその気になりつつあり、康宏に囁いた。
「まあ、金を出せば、環境がいいところに住めるってことだね」
「こちらは、もともと20万円のお部屋でした。5月に入居されていた方が海外赴任されるということで急に契約解除となり、すぐに入居者を決めたい大家さんの意向もあり、少し安くして19万円で当初募集をかけました。6月になっても新たな入居者が決まらないので、18万円とさらに1万円の値下げです。今は7月中旬ですから、大家さんと調整すれば、まだ値下げの余地があるかもしれません」
「美緒ちゃん、もう、ここにしちゃう?海外生活で苦労をかけたし、18万円は我が家の身の丈には合っていないように思うけど、麻理が幼稚園を卒園するまでの期間限定ってことで考えれば、妥当かも」
「そうね、何軒も見て回るのも疲れるし、これもご縁だと思って、もし、18万円よりも値切ることができれば、ここに決めるってことでどう?」
志村は一旦冷静になって、林に質問した。
「位置関係がいまいちよく分かっていないのだけど、このマンションから幼稚園や駅まではどれくらいかかるの?」
「幼稚園までは徒歩で10分、自転車で3分くらい、後楽園駅までは徒歩で12分くらいです。よろしければ、大家さんに電話をして、値下げ交渉してみますが、いかがでしょう。このマンションの売りを1つ2つ追加すると、ゴミ出しは、玄関にゴミ袋を出しておけば、管理人さんが回収してくれるので、1階まで降りる必要がない点です、また、1階のスーパーは24時間営業なので、冷蔵庫代わりとなり重宝すると思います」
志村康宏と美緒は目と目が合って、お互い頷いた。志村は林に大家さんとの値下げ交渉のゴーサインを出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます