第5話
林がコインパーキングからミニバンを回してきたので、志村は後部座席に、美緒は助手席に乗り込んだ。
「次は、資料の2枚目にある格安物件です。何と何と、管理費込みで11万円です」
「幼い子とは言え、3人で住むには、少し狭いと思います」
志村がそう口にするや否や、美緒が車窓から外観だけ確認することで差し支えないですと林に言った。
「分かりました。間取りは資料で分かりますから、ひとまず外観だけでもご案内します。ところで、抱っこ紐って、すごく安定しているのですね。お子さん、ぐっすりだもん」
「この子、麻理って言うのだけど、麻里は車の振動に弱いというか、眠気を誘発するようで、外国に住んでいた時、夜、グズグズして寝ない時は、深夜にわざわざ自家用車に乗せて、寝かしつかせていたこともあったの」
美緒は中南米での生活を懐かしむように、しみじみと言った。
「赤ちゃんって、可愛いですけど、夜、寝ないと、親がストレスを溜めちゃいますよね。その点、麻理ちゃんに効くとっておきの睡眠導入剤ならぬ、睡眠導入車という技があって良かったですね。まもなく、目的地に到着です。左手に見えるのが、2件目の物件です。かなり狭いですが、平屋のプチ一軒家で、赤ちゃんが泣いても、その泣き声が近所にあまり聞こえないと思い、物件リストに入れさせていただきました」
「いろいろと考えがあっての物件だったのですね。お気持ちは有り難いですが、妻も直感的に気に入っておりませんし、一見して狭く日当たりも悪そうだから、こちらの物件はパスでお願いします」
「分かりました。3件目の物件にこのまま続けて移動します。次の物件はお勧めです。バブルの時に建設されたマンションで、建て付けがしっかりしておりますし、1階に24時間スーパーが入店しており、お買い物が便利です。ただ、お家賃は月18万円です」
「なかなかお高いですね。予算15万円を遥かにオーバーしていますが、ひとまず、見学させてください」
「了解しました。このベージュの建物になります。このマンションの地下駐車場に駐車してきますので、ここで下車していただいて、マンションの入口でお待ちください」
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