第4話

 林が小走りに戻ってきた。

「お待たせしました。こちらのマンションの4階です。早速、エレベーターに乗りましょう」

「築、何年でしたっけ?」

 志村は物件資料をミニバンの車内で一読して築年数が20年であることを知っていたが、確認の意味で、林に聞いたのだった。

「20年です。2DKで、管理費込みで15万円です」

 林は10階まであるマンションの4階で止まったエレベーターの開ボタンを押して、志村たちに降りるように促しながら、回答した。

 林の案内の下、部屋に入った。玄関に入ってすぐにダイニングキッチンがあり、左手にトイレと浴室、そのまま直進すると左右2つの部屋に入ることができる造りになっている。

「リフォームされているので、水回りは結構キレイだと思います。1つの部屋は畳、もう1つの部屋はフローリングです。布団の場合は畳の部屋を、ベットの場合はフローリングの部屋を寝室にすると良いかと思います。ダイニングキッチンの窓からも、畳の部屋の窓からも、春は満開の桜がご覧いただけます。この播磨坂の側道は、桜の名所になっています」

「家賃の予算をおおよそ15万円でお願いしますと予め申し上げていますが、この部屋が正に15万円で、同じお金を出せば、似たり寄ったりの部屋になるのでしょうか」

 志村は文京区の家賃相場というものがよく分かっておらず、思うところを林に正直に聞いた。

「家賃相場は、駅までの近さ、築年数、日当たり、様々な要素により、総合的に決まってきます。時期的なものも意外と大きいです」

「時期というと?」

「やはり、4月に会社の人事異動が集中し、学生さんの入学式もありますから、2月から3月にかけての物件は、他の月と比べて、高くなる傾向があると思います。大家さんは強気に出るってことですね。今は7月ですから、2月や3月に比べると、出回る物件が少なく、家賃相場は安くなっていると思います。ただ、ここ最近、文京区に住みたいという教育熱心なファミリーが多くなっているようで、中長期的には家賃相場はジリジリと上がっているように感じています」

 この部屋に住むという実感が湧かない様子の志村と美緒は、ざっと各部屋を見て回り、林に次の物件へ移動するように伝えた。


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