第7話

 ゴーサインを受けて、林は大家さんにすぐに電話した。

「後楽園不動産の林です。今、ロイヤル小石川の物件を案内しているところですが、若いご夫婦がこの物件を大変気に入られて、賃貸契約を前向き検討されています。もう少しだけ家賃が安くならないかとのご要望があり、マダムに電話した次第です。いかがいたしましょう」

 林は部屋の外に出て、話し込んでいる。

「了解いたしました。その線で調整してみます」

 林が部屋に駆け足で戻ってきた。

「家賃は1万円値下げして、17万円として、敷金や礼金は要らないそうです。また、管理費や町内会費も大家さん持ちで、志村様の負担はなしとするとのことです。大家さんとしては、何としても早期に空室状態を脱したいそうです。本日から5日間は契約する権利を留保できますので、5日間以内に契約するかどうか、後楽園不動産まで連絡してもらえればと思います」

 志村は家賃が少し下がったことで、ホッとした。職場からの2万7千円の家賃補助を考慮すれば、何とか自分でも賃貸契約できると思い至ったのだ。

「妻と相談の上、今日、明日中には連絡したいと思います。ロイヤル小石川の周辺を実際に歩いてみて、住環境を確かめた上で、最終的に借りるかどうかを決めたいと思います」

「やっちゃん、もう、ここに決めて良いんじゃない」

 美緒はかなり乗り気で、もう引越のことを考えている様子であったが、志村は林に後ほど連絡すると繰り返し、ロイヤル小石川の1階で林と別れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る