第2話様々な登場人物。まだ話は繋がらない

肉体労働は太っていただけの俺にはとにかく過酷だった。

重たいものを運ぶのも機材などの重たい物を使うのも…。

とにかく何でもかんでも重たいのだ。

故に腕の筋肉は勝手についていく。

俺の身体に異変が起きたのは上半身からだった。

肩甲骨辺りから僧帽筋、腕全体にかけて異常な筋肉痛が俺の身体には起きていた。

毎日動き続けて代謝が良くなったのか、お腹周りや下半身の筋肉も徐々に付き始める。

本当に筋トレ要らずな現場仕事で俺の肉体改造は徐々に行われていく。

高校卒業から四年も経過した辺りで上司の言っていた通りの身体へと変化していった。

誰がどう見ても筋肉質な身体で周りの見る目も明らかに変わってきていた。

後輩で入ってきた若い社員に合コンに誘われた時、俺は自分の容姿に自信を持てるようになったのだ。

「七瀬さんだけズルいですよ〜女の子にモテて…何で誰も持ち帰りしなかったんですか?」

下世話な話を振ってくる後輩に軽く苦笑すると言い訳でもなく事実としてこんな言葉を口にする。

「俺は人間の本質に気付いているからな。俺に今いい顔している女性だって…容姿が昔みたいになったらすぐに離れていくぞ。そんなもんだろ?」

「そうですかね?七瀬さんは何処かクールっていうか…ミステリアスですし。性格だけでも寄ってくる女性がいると思うんですけど?」

「ありがとうな。褒められたと思っておくよ。でも…いや…何でもない。飲み直そうぜ」

「はい!お供します!」

そうしてこの物語の主人公こと七瀬博己ななせひろきと後輩男性社員は再び夜の街へと消えていったのだ。



スカした人間は気に食わない。

それが例えどんな見た目をしているやつだとしてもだ。

俺は知っている。

肥満体型で学校中の生徒からいじめを受けていた奴は、それでも自分を特別だと思っていたに違いない。

そうじゃなければ三年間休むこと無く登校してきた理由がわからない。

奴の事が気に食わなかった。

ギャフンと言わせて服従させたかった。

そんな幼心が自分の胸にあることを理解したのは大学生になってからだったと思う。

大学生になるとサークルがあり上下関係や男女関係は高校生の頃とは大きな違いがあったように思える。

変化や進化を遂げなかった俺は大学生でいきなり道に詰まる。

周りの奴らを服従させたかった俺に友達は離れていった。

悪い噂が流れているのか俺は相手にされなくなる。

こんな時、惨めな自分を慰められるのは過去の出来事だと思われた。

俺よりも劣った存在がいることを思い出して傷心中の心をどうにか慰めたのだ。

華の大学生活などとは、かけ離れた灰色の人生が幕を開けようとしていた。

誰からも相手にされない俺は次第に大学に通うのが億劫になった。

そして半引きこもりの様になり家から出るのは深夜にコンビニへ行く時ぐらいになっていく。

そんな時、俺は過去を思い出して絶望した。

いじめていたはずの奴は毎日どんないじめにあっても学校へと通い続けていた。

友達も居場所もないはずの奴の登校する原動力とは何だったのだろうか。

孤独で友達もいない奴は体型に似合わない涼しい顔で毎日学校へと通っていた。

劣っていると思っていた相手よりも俺は確実に劣っている。

そんな事実に打ちひしがれて大学も途中でやめてしまう。

何にも頑張れないと感じた俺は家でネットをいじるだけの生活を送るようになる。

同級生の輝く姿が映ったSNSを眺めると生きているのが辛くなる。

けれど…これは因果応報なのだ。

そんなことに気が付くと本日も格闘ゲームで憂さを晴らしていくのであった。



「高校時代の先輩に凄いやつがいたんだよ」

彼氏の話の切り出し方に嫌な予感のような物を感じた私は適当に相槌を打った。

「その反応なんだよ…話盛ると思ってるだろ?分かるけどさ…この話だけはマジなんだ」

そうして仕方なく彼氏の話を聞く姿勢を取ると話は始まった。

「凄い太っている先輩でさ。全校生徒にいじめられていたんだ。それなのにその先輩はさ。誰にも負けずに毎日登校してきたんだ。孤独だし仲間も友達もましてや恋人もいないのに。普通に登校してきて。卒業式の日に三年間皆勤賞を唯一貰った生徒なんだよ。しかも俺の通っていた高校はマンモス校でさ。生徒の数も凄かったのに…いじめられていた先輩なのに…なんか…今思うと尊敬できるなって思ったんだ。誰にも負けないって難しいだろ?自分にも負けないって大変じゃん?凄いよな…」

彼氏の話を聞いて、この話も盛っているのではないかと勘ぐってしまう。

だが彼氏は目に少しの涙を浮かべて懺悔のような言葉を口にする。

「俺も数回いじめのような発言をしてしまってさ…。今思うと仲間や友達になればよかったって後悔しているよ。独りは辛いはずだろ?」

「そうね。でも強い人は独りってよく言うじゃない」

「そうなのかな…」

「話はわかったけど…何でいきなりそんな話?」

「ん?ふと思い出したんだよ。今映っている太っているタレントを見てさ」

「何だ。連想ゲーム的な感じ?」

「まぁ。そんな感じ。何処かで会ったら謝りたいって思っていたからかも」

「そう。良いんじゃない?謝るといいよ」

その言葉に頷くとそこから彼氏は関係のない太っているタレントに許しを請うように手を合わせているのが不思議に思うのであった。


そんな彼氏と私はこの数日後に別れることとなる。

仕事が忙しいと同棲を断られた事がきっかけとなり私は彼から離れて新しい恋を見つけようと思うのであった。

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