第46話 やみほむら
【前話までのあらすじ】
分断されたパーティ。それぞれが094部隊との闘いを強いられる。ライスは、闇属の魔法により辛い過去と偽りの未来を見せられる。苦しむライスを目の前にロス・ルーラの怒りが頂点に達した。ロスvsクラムの闘いの鐘が鳴る。
【本編】
式紙の白虎は左右に分かれ、クラムを威嚇する。
クラムは両手に黒炎を纏っている。
白虎が飛びかかろうとするとクラムの黒炎が龍となって白虎に襲い掛かった。
白虎は龍に噛まれると真っ白い灰になって散ってしまった。
「死んでしまったな。もっとも生きてはいないか。興味深い術だ。ところで、もたもたしていていいのか? この間にもライスの夢の中では、彼女を庇いながら誰かが死んでいる。全員が死んだあと、どうなると思うね。クククク」
「ふんっ。『罪悪の呪い』だろ」
ロスは声を荒げる事もなく平静な声で言った。
「 ..妙だな。魔法使いでもないお前がなぜこの呪いを知っている」
「ああ、知ってるさ。そいつが完成すると、夢を見ている者が目を覚ました瞬間、夢で殺された人は同じ死を迎えるんだ。そして夢見た本人の魂もズタズタとなって、お前らのデザートになるんだろ。趣味の悪い呪いだ」
「貴様、何者だ?」
「俺の中に入ってみればいいだろ。ああ、出来ないか。あの白梟(はくきょう)が俺を照らす限りな」
白梟は森の枝に停まり、身体全体で太陽の光を取り込むと、その大きな鏡眼から光を発していた。白い光は、ロスの周りに結界を張っていたのだ。
「貴様が、何者だろうと、その娘の目が覚めれば全てが終わることよ」
「お前、『牢獄の魔道具』の使い手などではないのだろ。お前は『闇の従者』だ」
「ふふふふ、お前は興味深い男だ。とっくに気が付いていたのだな。俺は闇の従者クラム様だ」
懐から取り出した白い面を被るとボロボロのマントで身体を包み込んだ。クラムは人間の姿から黒い獣となった。
「まったくお前らは変わらない。人であろうか、獣であろうか、いつも迷っているから白い面でごまかす。そんなお前にひとつ勘違いを教えてやろう。『闇属の魔法』っていうのは使う者が少ない。ましてやその魔法の炎は黒い闇炎。だから昔から『お間抜け野郎』は勘違いをするんだ。白虎を灰にした時、俺は確信したよ。お前がその『お間抜け野郎』だってな」
「昔からだと.. 貴様はいったい何なのだ? まぁ、いい。どちらにせよ、もう娘の目が覚めて呪いが発動する」
「そうだな。目が覚めるな」
「ん.. んん..」
ライスがゆっくりと立ち上がると、その額には闇よりも深い闇色の瞳が開いていた。
そして手に乗せた「光のない黒炎」で自らを焼いた。
『ひさしぶりだね、リ.. ロス・ルーラ』
「な、な、な、な、なんだお前は!?」
『やぁ、初めましてお間抜けさん。僕の名は魔人ルカさ。闇の魔人なんて呼ばれるけど、君らとは、まったく関係ないから』
「ルカ、本当の闇の炎を説明してやってくれないか」
『ああ、聞いてたよ。君、闇の炎で白虎を焼いていたよね』
そう言うと魔人ルカは手の平に闇色の炎を出して、それをロスへと放った。闇色の業火はロスの全身を包み込んだ。
だが、炎の中でロスは平然としていた。
ルカが指を弾くと炎が消えた。
『ね、燃えないんだ。本当の闇炎(やみほむら)は焦げ目もつかない。そして君にこの闇炎を贈ってあげるよ』
小さな闇炎の破片がクラムの手に乗った。
「ギャー!!」
クラムの手が焼け落ちると、その下から猿のような手がでた。
「何をしやがった!?」
『ごめんね、でも、痛くはなかっただろ』
そのあどけなさの残る口調がクラムには恐怖だった。そして自分が恐怖していることを悟ると、それがさらなる恐怖となり足が震え始めた。
「お、おのれ、私の黒炎で灰になってしまえ!」
黒い狂炎がライスの体を覆いつくす。
「だから、お前らは学習能力がないんだ。ルカは最初にライスの体に何をしたか忘れたのか」
ロスが呆れ果てた言葉に、クラムはハっとした。
「か、身体に火をつけた」
その声は裏返っていた。
「その闇炎は、穢れを燃やす炎。今もライスの身体の中で貴様の嫌らしい呪いを燃やしているんだ」
『そういうこと。だから君の黒炎は、まったく効かないんだ。 さよなら♪』
そういうとルカはクラムの身体を闇の業火で燃やし尽くした。
痛みも苦しみも感じず、呆然と立ち尽くしながらクラムは白く変色していった。
そして、闇炎が消えるとそこには1匹の子猿が姿を現し、光に包まれ消滅した。
『かわいそうに、もともと子猿の魂だったようだね』
「悪かった、ルカ。俺の我儘を。どうしても、ライスを失うわけにはいかないんだ」
『ああ、ロスの願いは聞こえたさ。でも、僕らが出るとライスの負担が大きい。もう、いくよ。本当に会えてうれしかったよ、またね』
「ああ、また会おう、炎光の魔人ルカよ」
別れの言葉を交わすとライスの額の眼が閉じた。
「ん、んん~..ロスさん..」
「ライス! 大丈夫か?」
「うん。私、どうしてたの? なんか、頭がぼーっとしてる」
ライスはおでこをポリポリ搔きながら目を覚ました。
「ば、馬鹿野郎。君の役目は私の護衛だろ。なんでひとり眠ってるんだ」
「あ、ごめんなさい」
そう言いながらライスはお腹の虫を鳴らしていた。
「なんか、お腹減っちゃった..」
その時、どこからか狼の遠吠えが聞こえた。
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