第45話 悪夢

【前話までのあらすじ】


094部隊長ゲルによってバラバラに飛ばされたパーティ。リジの前には空属性の精霊を酷使するスカが現れた。巧みなスカの魔法攻撃に苦戦するリジだったが「剣で闘うのが剣士」とスカを一閃する。

◇◇◇


【本編】


 「ギャーッ!! ってあれ? なんで俺生きてんだ?」


 頭を真一文字に斬られたはずのスカは生きていた。


 「剣があんたなんか斬りたくなかっただけでしょ」


 「命だけは助けてくれたんか、優しいメイド。優しいメイド♪」


 しかしスカは自分の耳半分が無くなっている事に気が付くと騒ぎ始めた。


 「俺の耳がぁ! この糞メイド、耳返せ! 耳返せ!」


 「うるさいわね! あんた、いい加減にしなさいよ!」


 「俺の耳!返せ! かえ—」


 パタンと乾いた音をたててスカは倒れた。


 スカの眉間には翠の矢が刺さっていた。


 「アシリア!? ..何で?」


 「お前たちは甘い。私は『牢獄の魔道具』を使ったものを決して許さない。それよりも魔石の中から精霊を出してやってくれ。頼んだぞ、リジ」


 リジが『聖なる空の剣』を振ると、風刃により魔石は両断された。


 中から聖剣に住む精霊フゥとよく似た精霊がでてきた。


 そしてリジの姿を見ると怯えた目をして逃げていった。


**

—ロスとライスの森—


 ロスはライスの手を固く握っていた。


 ライスは夢にうなされている。


 それはライスが幼少の頃の不遇な過去と、これから起きるであろう『偽りの未来』だった。



——

 ライスはいつ、どこで自分が生まれたのか全くわからない。


 覚えている記憶は自分がいくつもの孤児院を渡り歩いて来たことだけだった。


 「レザン神父さま、この子が例の子です。お気を付けください。決して扱いにお間違えの無いように」


 「わかっています」


 そんな会話の傍ら、女性修道士に手を繋がれ笑顔を見せる幼少のライスだった。


 「こんにちは、神父さま」


 「ああ、こんにちは、ライス」


 3歳のライスは「神儀六典の麗光協会」の孤児院を2度も移っていた。


 その前の2つの教会は大地震で崩壊、または稲妻で燃え堕ちた。


 どの協会にも神父以外の死人は出なかった。


 レザン神父はとても優しく、ライスに道徳というものを教えてくれた。


 シラブ教会の孤児院には下は3歳から上は15歳までの少女がいた。


 ライスは小さい頃からすぐにお腹が減る子だった。



 「ライス、もう食べちゃったの?」


 「うん..サラお姉ちゃん、なんでライスこんなにお腹が減るのかな」


 「たぶん、ライスが大きくなるために必要なんだよ。ほら、お姉ちゃんのパンあげるから、懐に隠しておきな。みんなには内緒だよ」


 「お姉ちゃんは?」


 「私は大丈夫だから」



 そういうとサラはいつも眩しいほどの笑顔を見せてくれた。


 サラからもらったパンを食べてもライスのお腹は満たされることはなかった。


 ライスはこのお腹が減るのを神父に相談した。



 「食べても食べてもお腹減るの。なんでなの、神父さま」


 「それは、ライスが大人になるために必要なんだよ」


 やはり神父様の答えもサラのいう答えと同じだった。


 「ライスね、魔法使いになりたい」


 「なんでだい?」


 「だってそうしたら魔法の料理でライスのお腹がいっぱいになるまで食べることできるもん」


 「ははは。それはいいね。魔法で自分の欲求を叶えられるのは素晴らしいことだ。でもそのためにはいろいろ努力もしなければいけない。がんばりなさい」


 「はい、神父さま」



 それから2年後、サラは原因不明の病にかかった。病状は日々悪くなり、ついに彼女の体の末端は腐り始めた。



 「お、お姉ちゃん」


 「ライス、だめだよ。この部屋に入っちゃ」


 「お姉ちゃん、苦しい? 治るよね?」


 「ああ、ライス、お姉ちゃんはまた元気になるよ」


 笑顔とは裏腹に、サラの瞳から涙がこぼれ落ちた。


 「ライス、あなたの夢は何? 私、聞きたいな」


 「ライスの夢はね、魔法使いになるの! そうしたらお腹いっぱい食べれるし」


 「ははは。それはいい夢だね。ライスが魔法使いになったらみんながお腹いっぱいになれるね」


 「私だけじゃなくて、みんなが?」


 「そうさ、ミザリやユーヤ、他の子たちもライスと一緒にお腹いっぱい食べれるんだ。お姉ちゃんもがんばったけど、もうダメみたい..ライス、早くここをでて魔法使いになるんだ。そう、みんなを幸せにする大魔法使いに」


 サラは翌日に体調が急変し、あっけなく死んでしまった。


 サラは村から離れた人が近寄らない寂しい場所に捨てられるように埋められた。


 ある日の晩。



 「いやだ! いやだよ、なんで私がそんなことを!」


 「イリヤ、これも教会の為、孤児院のためだ。お前は他の子が飢えて死んでもいいのか? 大丈夫。あの方の屋敷なら腹いっぱいおいしい料理も食べられるし、お前の知らない体験がいっぱいできるんだ」


 「いや、私、知ってるんだから! サラお姉ちゃんがやらされていたこと!」


 「聞き分けの無い事を言うな! お前らガキを育てるために俺がどれくらい苦労しているかも知らないくせに! 身体を捧げるなんて大したことじゃないだろ! だいたい、あのサラが病気なんかになりやがって! 役立たずなガキめ!」


 その会話をライスは聞いていた。


 幼いライスには全てを理解することはできなかったが、サラがやりたくないことをやらされていたことは何となくわかった。


 「ねぇ..神父さま、なんでサラお姉ちゃんの悪口を言うの? お姉ちゃんがんばってたよ。お姉ちゃん、がんばってたのに! 神父さまも死んじゃえばいいんだ」


 悔し涙をながしながら、神父を見据えると、神父の腹がだんだんと膨れていく。



 「うっ、なんだ。これは... 俺の腹が.. ライス、お前か..ごめん、このとおりだ、たすけてくれ」


 「誰にごめんなの?」


 「ライス、あとでおいしいものあげるから、た、助けて」


 「 ....おいしいものは、魔法でつくるから、いらない」


 「いやだ、死ぬ、死..  グぶぁああァ—」


 神父は言葉にならない断末魔を吐くと破裂して肉片となった。


 そして赤い業火に教会は燃やし尽くされた。


 子供たちは他の孤児院に預けられ、ライスだけがまた違う国の教会に移された。


 教会の上層部は言った。


 「今度はミーク村の教会、その次はシャイツの教会に送り込む予定です、司祭様」


 「ああ、悪い噂のある所にあの娘を送り込め、いわば、あの娘は神の踏み絵よ、ふふふ」




 ——ライス、お前は所詮、そういう役目の人間だ。お前が死を招いているんだ。お前の仲間も本当の仲間か? いつかロス、リジ、アシリアに死をもたらす、それがお前の運命だ——




 「ライス、起きろ! ライス!」


 涙を流し悲しみ、苦しむライス。


 「お前の仕業か!!」


 「ほぉ..空間の歪に隠れていた私を見つけるとはやはり、ロス・ルーラ、貴様は興味深いな。私の名はクラム」


 まるで筋肉のなさそうな腕にぜい肉で2段になった腹、猫背で髪の毛を全て後ろに撫で上げた長身の男。その鼻にはピアスが着いていた。


 「もう知っているだろう。俺は『牢獄の魔道具』使いだ。闇の精霊キゼを使う。ライスは今頃リジを自分の魔法で惨殺している夢でも見ているだろう。さぁ、どうするね、ロス・ルーラ」


 「そんなの決まっているだろう。貴様を始末する」


 「いいねぇ」


 ロスは式紙を投げ白虎と黒豹、そして白いミミズクを召喚した。

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