第30話 滅びのラクルは成金草

【前話までのあらすじ】


ロスとライスが留守の間に家宅の庭に侵入者。逃走中の少年と追撃者。傍若無人な追撃者は拳士ペグと剣士ナット。当然、留守番のリジと一戦交えることに!闘いはリジが優勢だった。しかし拳士ペグは歯の飾りに『牢獄の魔道具』を忍ばせていた。形勢逆転の展開にロスが忍ばせていた式紙・白虎が発動した。追撃者たちは立ち去った。

◇◇◇


【本編】


 ロスとライスが『秘想石品評会』から帰宅すると、ソファーで眠る見知らぬ少年にリジが寄り添っていた。


 「リジ、私たちがいない間に..あなた」


 「ち、ちょっと何考えてるのよ、バカ! そんなわけないでしょ!」


 リジは逃げ込んできた少年と追っ手のペグとナットと闘った経緯について説明した。


 庭では2匹の白虎がじゃれ合っていた。


 「そ、それでね、ちょっとロスさん、この子の頭を見て欲しいの」


 「あっ、これって角? なんか透明でキラキラして綺麗だね」


 ライスの声に少年が目を覚ますと自分の頭の角を手で隠し警戒した。


 「 ..だ、誰だ?」


 「人の家のソファーに寝ていて『誰だ?』はないだろ。俺はここの主のロス・ルーラだ」


 「妻のライスでーす」


 リジが呆れた顔をした。


 「私はリジ。私のことは覚えているわね」


 「あっ、闘うメイドさん。ありがとう」


 「少年、そんな隅に逃げないで、ここに座ってくれない?」


 リジの呼びかけに、少年は素直に従った。


 「少年じゃない。シルバ。僕の名前」


 「シルバ、君はなぜ追われていたんだ?」


 「 ....」


 ロスが聞いてもシルバは返事をしなかった。


 「シルバ、私が助けなければ、君は彼らに捕まっていた。それに君が原因で木塀も壊れてしまったのよ。ロスさんの質問に答える責任が君にはあると思うよ」


 リジがそういうとシルバは頷いた。


 「僕は鉱山行きの荷車から逃げて来たんだ」


 「鉱山?」


 「あいつら、僕は欠陥品だって言ってラクル鉱山で働かせるって」


 「ラクル鉱山だって!?」


 「あいつら、嘘を言っていたんだ。くそ!」


 そういうとシルバは悔し涙を滲ませ、その場に膝を着いた。


 「シルバ君、もしかして君は角人じゃないかい?」


 「 ..うん」


 「ちょっと、君の頭の角を見せてくれるかい?」


 ロスがそう言うとシルバは再び手で角を抑えて警戒した。


 「大丈夫だよ、シルバ。ロスさんは君に危害くわえるような人ではないよ」


 リジが再びシルバを説得すると、シルバは頭から手を下げた。


 角は右側の頭頂部に一か所生えていた。


 「ライス、この角に覚えがないか?」


 「え、え~と.. あっ、秘想石! じゃ、この子は」


 「ああ、この子はきっと品評会に出される予定だったんだ」


 この時、ロスはマイルの調査報告書に書かれていたことが事実なのだと実感した。


 ロスはシルバが体験してきたことを許せる限りで話してもらう事にした。


 ・・・・・・

 ・・


 夕食を済ませたシルバは、『逃走』という長い一日から解き放たれた。ソファーの上で深い眠りに沈んだ。


 ロスは彼をベッドへ運び終えた後、居間でライスとリジに『調査報告書』の内容を説明した。


 「俺はマイルからの調書を読んだ。君らにもその内容を知ってほしい。まず、『山の民』の正体だが..それは角人のことだ」


 「ロスさん、ヴァン国で角人なんて聞いた事もないわ」


 「ああ、俺も初めて知ったさ。彼らはその小さな角以外は人間と変わらない。だから角人という存在は世界に知られていないのだろう」


 「でも、角人が『山の民』なら彼らは野蛮で危険な存在よ。家畜を盗んだり、畑を荒らしたり.. 旅人を襲って金品を強奪するとも聞いているわ。残念だけど討伐されても仕方がないよ」


 「リジ君、君は冒険者への依頼で『山の民討伐』を聞いた事はあるかい?」


 「あるわけないわ。だってそれは選ばれた討伐隊の仕事だもの」


 「そうだ。そしてその討伐隊はこの国の御三家といわれる華貴族たちがそれぞれ所持している私営部隊だ」


 ロスは話をつづけた。


 「このペドゥル国は歴史が古い。古くからティアール鉄の産地だ。だが、現状はティアール鉄の採掘量は減っているという」


 「それは聞いた事ある。だからペドゥル国のティアール鉄の武器は段々値段が上がっているもの。お金がない冒険者は他国の鉄が混じっている武器で我慢しているのよ」


 「へぇ、そうなんだ。リジは物知りだね」


 「常識よ!」


 ライスが褒めるとリジは少し得意げになっていた。


 「そして、ペドゥル国は新たな資金源を見つけた。それが魔石と秘想石だ」


 「ちょっとまって、ロスさん、この国はもともと『ティアール鉄』と『魔法石』の産地のはずでしょ? 『魔石』じゃないわ。それに『秘想石』なんてヴァン国で聞いたことない」


 「リジ君、ライス、魔法石はどういう石か知ってるか?」


 「うん。もちろん。魔力を増幅したり溜めたり、または精霊たちとの意思疎通にも使われるよね」


 「そうだな。だが、それは魔法石の使い方だ。俺が言っているのは魔法石の成り立ちの話だよ」


 「それは、鉄とかを鉱山で採掘した時、時々、それに混じって発見されるんだよね?」


 「そのとおりだ。しかし、実は、魔石と魔法石は似たようなものだ。世の中に出回っている魔法石というのは、魔獣や魔者の亡骸が化石化したものなんだ」


 「じゃ、ペドゥル国の魔法石は魔獣を倒してできた魔石と同じって事なの?」


 「ああ、そういっても言いだろう。君たちはラクル鉱山のあるラクル地区のことをどのように教えられているんだい?」


 「魔獣よりも恐ろしい者がいる未開の場所。どの国も管理をしたがらない危険地区。行った冒険者が帰らないことから『滅びのラクル』なんて揶揄もされているわ」


 「リジ君、君にとっては、信じがたい話かもしれない。ラクル地区のかつての名は『ルメーラ国』。ヴァン国の双児国だった国なんだよ」


 「ちょっと待ってよ! ルメーラ国は勇者ソルト伝説に出て来る空想の国でしょ! しかも覇王ガゼが支配していた魔国だよ! いい加減な事いわないでよ!」


 「リジ君、ルメーラ国は空想ではないんだ。 あの国は美しい湖がある豊かな国だった。世界一綺麗な湖には、女神レイスが水浴びに訪れていたほどだ。 そのためにルメーラ国は女神の恩恵を受けていた国でもあった」


 「そんなの初めて聞いた。じゃ、魔国っていうのは何?」


 「ある日、『闇』が四つの漆黒をルメーラ国に落とした。当時の王ガゼは四つの漆黒に取りつかれ闇落ちしてしまった。彼は覇王と名乗り、魔獣、魔者を使って混沌の世を作ろうと目論んだんだ。その後は君たちの知る勇者ソルト伝説のとおりさ」


 「でも、なんでそんな出来事が双児国であるヴァン国に伝えられていないの?」


 「それはわからない..」


 ロスは嘘を言った。大魔術師リベイルが大魔法を使って世界の記憶を曖昧にしたのだ。その事実をロスは知っていた。


 「ルメーラ国、つまりラクル地区には、勇者ソルトのパーティが倒した魔獣、魔者の魔石が何千、何万と埋まっているんだ」


 「じゃ、もしかしてデリカの『牢獄の魔道具』やレキの『漆黒の剣』もラクル地区に関係しているの?」


 「ペドゥル国はラクル地区の採掘をしている。可能性は高いだろうな。 そしてそんな場所で働いているのが、角人の人々だ」


 「でも、そんな危険な場所..まさか強制的に?」


 「ああ、シルバ君のような子も働かせているに違いない」


 「ちくしょう! あの2人逃がすんじゃなかった! いろいろと聞きだせばよかった」


 リジが珍しく汚い言葉を使った。


 「ところでリジ君、マイルはちゃんと仲介屋を調べてくれていたよ。君のチームにデリカとレキを送り込んだ重要人物だ。明日、君も一緒に行くかい?」


 「もちろん!」


 リジは大きな声で返事をした。

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