第28話 駆け込み場所
【前話までのあらすじ】
マイルが手に入れてくれた招待状にて『秘想石品評会』に出席したロスとライスだった。秘想石というのは光を当てると、とても美しい風景が映し出される珍しい宝石だった。しかし品評会とはこの宝石ではなかった。舞台に並べられたのは、まだ年端も行かない子供たちだ。ここは人身売買の会場だったのだ。
◇◇◇
【本編】
ライスとロスの目の前で、角人の子供たちの売買が公然と行われていた。
人が人を売り買いするこの光景は、17歳のライスにはあまりに衝撃的であった。
「ライス、もう帰ろう」
「うん」
ロスたちが帰る様子を見つけるとセシル・バスが近づいてきた。
「いかがなさいました。ルーラ様」
「ちょっと妻の具合が悪いようで、今日は失礼させてもらいます」
「そうですか。それでしたら、実は後でお渡しするつもりでしたが..」
そういうとセシル・バスが係りの者に合図をした。
係りの者が持って来たのは小さな木箱だった。
「こちらは、それほど高価ではありませんが『秘想石』でございます。家に帰られましたら、こちらで奥様を癒して差し上げてください」
「わかりました。ありがとうございます」
言葉少なに木箱をつかみ取るとロスはライスを連れてその場をあとにした。
その時、セシル・バスの『ふんっ』という何処までも高慢な鼻を鳴らす音を聞き逃さなかった。
**
—削壁通り—
ひとりの少年が、筋肉質でガタイの良い男と瘦せ型の剣士に追いかけられていた。
少年の腕からは血が流れている。
「どうせ、そんな様の貴様は逃げられやしねぇ。痛い目を見る前に捕まっちまいな」
大男のがなり声が夜の通りに響いた。
少年は裏路地に入ったがその先は行き止まりになっていた。
剣士の長い影が見えると少年は慌てて木の塀を登り、侵入した庭の草陰に身を隠し、息を殺した。
「ガキ、どこいった?」
「どうする、見逃したと報告するのか?」
「いや、それはできねぇな。なぜならガキはそこにいるからだ」
大男は木の塀を蹴とばし、バキバキと木壁を壊しながら入って来た。
「う、うわぁ..だ、誰か..」
恐怖でうわずった声じゃ、大きな声すら出すことができない。
「どうせ逃げられぬのだ。あきらめて、大人しくしていろ」
剣士は少年の胸に剣をあてながら凄んだ。
「誰?」
奥からこの家のメイドがでてきた。
「メイド、何でもない。家に入っていろ!」
「は? あなたたち人の家の壁を壊しておいて、何言ってるのよ」
メイドは強気に口答えをした。
「ペグ、目撃者は斬り殺しても構わないよな」
「まぁ、仕方がないな..」
大男の許可がおりると剣士は気持ち悪い「キヒヒ」という笑い声をだし、メイドに素早く切りかかった。
—キーン 刃先が少し欠けている剣は涼しげな水晶の音を鳴らした。
同時に剣士の右手から剣が奪われていた。
「あなたたち、ここがロス・ルーラの屋敷だって知っているの?」
メイド姿のリジが —ヒュ っと剣を振るとつむじ風が巻き起こった。
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