第26話 ライスの新しい服、お披露目
【前話までのあらすじ】
王国の密偵という肩書を持つ興信所のマイル。ロスたちは彼と情報提供の契約を成立させた。彼の情報次第でワイズの救出、またはこの拉致事件の真相すらも明らかになるかもしれない。まずは、『果報は寝て待て』だ。
◇◇◇
【本編】
ライスは珍しく人に起こしてもらうことなく早起きしていた。顔も洗い、髪もとかし準備万端である。
何が準備万端かというと街へのお出かけ準備だ。
今日はライスの注文していた服の受取日なのだ。
これまで黒いシャツにチェックのスカートを適当に合わせ、安いマントを羽織っていたライスだが、きちんと仕立てた服を着るのは生涯初めてだったのだ。
そう考えれば、これくらい楽しみにするのは女の子として当然だ。
朝食を終えるとライスは真っ先に玄関先に行き、急かすようにロスとリジを呼んだ。
・・・・・・
・・
店の明かりはついているがまだ準備前のようだ。
ライスは展示ガラスの隙間から店内を覗き込む。
—ガチャガチャ と音がしてドアが開くと店主がホウキを持って出て来た。
「おや、お嬢ちゃん、早いね」
「あ、あの、おじさん—」
「はははは。もう出来ているよ。さぁ、ロスさん、リジさんも中へどうぞ」
店の中の卓上に置かれているのはライスの新しい服だ。
基本は黒いワンピースドレスの魔法使い仕様だ。
大きなフリルが三重に折り重なった半袖になっている。
首周りは、胸元まで下げようかという企みをロスに反対され、健全な空き具合。
スカートは膝元まで隠れているが、タックが入っている為、自由に動ける。
タックの裏地には紫の模様が入れられていてアクセントになっている。
そして黒いタイツに白いブーツ。
魔法の帽子はないが紫に白い鈴蘭の模様が入った大きなリボン。
リボンの真ん中には赤い魔法石が施してあった。
そのドレス一式を見るとライスは目を潤ませながら喜んでいた。
そしてチグルに抱き着いた。
「チグルさん、ありがとう」
「こりゃ、まいったね。こんなに喜んでもらえるなんて、この街では新鮮だよ」
「ううん。もう最高だよ」
「ははは。そんなに喜んでもらったお礼だ。このケープコートも持って行くといいよ。色は深い灰色をしているからドレスにあうだろう」
試着室でリジに手伝ってもらい出て来たライスは、クルっと一回りすると、スカートのすそをつまんで満面の笑顔を見せてくれた。
「そうそう、リジさん、ついでと言っちゃなんだが、あなたのブーツも用意しましたよ。剣を携えているあなたの役に立ってくれますよ。このブーツの素材はネイルコーデンです。世界で一番軽く丈夫な素材ですよ」
リジのブーツはダークブラウンのブーツだった。
チグルはライスとリジに抱き着かれると鼻の下を伸ばしていた。
「チグルさん、ありがとう。もし、服が必要になったらまた利用させてもらうよ」
「こんなに喜んでもらえるなんて職人冥利につきますよ。いつでも利用してください」
ライスは通りに出ても鼻歌交じりでステップを踏んでいた。
「なぁ、ライス、リジ君、ここまで来たんだ。『レッテの本屋』に寄っていかないか?」
ロスは、たった一晩しか経っていないので期待はしてはいなかった。
しかし..
「ああ、お客さん。昨日は息子が悪かったね。例のアレを取りに来たんだろ」
「いや、別にまだ出来てな—」「出来てるよ」
レッテはかぶせる様に言った。
「えっ! 出来てるの?」
「ああ、息子はすぐやる気質なんだよ。昨日帰って来てから夜中まで籠って書き上げてたよ」
マイルはマメな上に仕事が早かったのだ。
「そこの本棚のこの店では一番売れない『ノミの跳躍競争全記録』に挟まってるよ」
「これに?」
大きく分厚い本の中は刳り貫かれていて、そこに10枚程にまとめられた報告書が入っていた。
「はい、48000プレンです」
「え? マイルにはもう魔石20個を支払ったけど?」
「本代ですよ」
レッテはかなり商売上手だった。
48000プレンは、3人でそこそこの宿に2泊するくらいの金額だ。本代としては高すぎる値段だが、仕方がない。
10枚の報告書の表紙には以下のことが書かれていた。
〇ペドゥル国の鉱物資源の現状と開発計画。
〇山の民との軋轢
〇討伐隊と御三家
〇仲介人
〇新たな資金源
そして報告書の最後には招待券が1枚張り付けてあった。
[秘想石 品評会 招待状 ルーラご夫妻 Jein/12]
『この国で何が行われているのかしっかり見て来るといい』と添え書きされていた。
日付は今日だ。
その夜、ロスとライスは品評会に参加することになった。
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