第25話 契約成立

【前話までのあらすじ】


『北の山』へワイズの捜索をするためには、まずは情報を集めなければならない。ロスは『レッテの本屋』で購入した地図に注目した。街の地図には事細かに街の情報、しかも個人のプライバシーに関する情報も書きこまれていたからだ。ロスはレッテの本屋で地図を作製したのがレッテの息子マイルと知る。しかし、探りを入れるロスにマイルが奇襲をかけて来た。

◇◇◇


【本編】


 マイルは顔を転がる硬貨を手に取った。


 「これは.. なるほど白金硬貨にヴァン国の刻印か」


 「そうだ、マイル。俺たちはヴァン国の人間だ。君が何に警戒しているのかは知らないが、俺たちは対象外だ」


 マイルは白金硬貨を弾いてリジに返した。


 「まぁ、確かに俺の警戒対象とは違うな。だがな、その代わり新たな疑問.. いや興味が沸いたぜ。この白金硬貨っていうのは王家や領主家しか持てないものだぜ。それをあんたらがなぜ持っている。返答次第じゃ、尚更怪しいってことになるぜ」


 「それについては—」


 リジがロスの話を遮るように前に出た。


 「いいわ、ロスさん。私が話すわ。ライスも魔法を下げて」


 「リジ..」


 ライスは魔法を解除した。


 「私の名はリジ・コーグレン。さらわれたおじいさまの手がかりを求めて、仲間のロスさんとライスの力を借りてここまで来た」


 「コーグレン家の後継者か。こいつは驚きだ。メイド姿が似合いすぎでさらに驚きだ」


 マイルは持っていた特殊ナイフを手元で回転させると胸のホルダーにしまった。


 「もう疑いはいいのか?」


 「ああ、普通、メイド姿の娘がワイズ・コーグレンの孫娘だなんて嘘はつかない。それにあんたらが俺を尋ねに来たという理由も同時にわかったしな」


 空を飛んでいた鷲がロスの腕に停まると紙に戻った。


 「俺はロス・ルーラだ。改めて君にお願いしたい。ワイズ・コーグレンについて知っている情報があれば教えて欲しい。君はこの街、いやこの国の情報を知っているはずだ」


 「単刀直入だな。だが、買いかぶるなよ。俺が知っているのは店主どもの不倫情報くらいだ」


 「シラを切るな、マイル。こちらは祖父であるワイズさんの命を懸けて、リジが本当のことを話したんだ。君の持つナイフは3国王家の密偵のものだ」


 その瞬間、マイルの気が再び尖った。


 「きさま、何者だ。俺はこのナイフを見て反応を示すものを殺してきた。きさまはなぜこのナイフを知っている」


 マイルはナイフをホルダーに収めるふりをして袖口に隠し持っていた。


 「どうする? 殺すか? 今ならリジは剣をおさめている。君ならライスが詠唱する前にそのナイフで俺の首を斬ることもできるだろ」


 「クッ。俺が出来ないのを、知って言っているだろ。わかったよ。あんたが敵なら俺は最初に斬りかかった時、死んでいる。どこからか俺を狙っている弓矢でな」


 「さすがだな」


 「俺があんたを狙った時、わずかに俺の踏み出しを遅らせたのは矢だ。すぐに消えてしまったがな。その後は俺にだけ凄まじい殺気をぶつけている。どこにいるかもわからんけどな」


 「そっか! アシリアだ。 アシリア~!」


 ライスが取り敢えず手を振っている。


 「クククク、氷のアシリアか。こりゃ、余計に分が悪すぎだ。しかし、氷のアシリアが俺を殺さずにいるんだ。わかった。とりあえず、あんたは敵じゃないな」


 「そのとおりだ、マイル。俺は君の客だよ」


 ロスはマイルに手を差し出した。


 「いいぜ。依頼を受けよう」


 ロスとマイルの握手により契約が成立した。


 マイル興信所はワイズ・コーグレンに関する情報を調べ報告することになった。


 ・・・・・・

 ・・


 今、とり急いでの情報はない。後日、興信所として報告書を持ってくるとマイルは言っていた。


 細かな地図に番号をふった見やすい冊子を作ることから、マイルはかなりマメな性格だ。口頭で言った言わないになるのを嫌うタイプだ。


 「ねぇ、ロスさん。3国王家って何?」


 「ライス、3国王家知らないの? 冒険者なら知らない人いないよ」


 「うへっ! 嘘? リジも知っているの?」


 「当然よ、ていうか学校の歴史で習うじゃん」


 「えへへ、私、学校行ってないんだ..」


 「わかった、わかった。では農夫でありながら歴史研究家の俺が説明してやろう—・・・」


———

 この世界は5王6領主の形をとっている。ひとつの王国に対してひとつの領主国だ。


 ちょうど領主国ペドゥルと王国カシューの関係がそれにあたる。


 なぜ5王5領主ではないのかだって?


 かつては6王6領主だったのだ。


 しかしその1国は滅びてしまい領主国だけ残った。


 話を戻そう。


 現在ある5王国の中で太古から脈々と血が受け継がれて来た王国、それが3王国なのだ。


 あとの2国は王国カシューのように富を築いきあげ、街が巨大になり王国となったものだ。


 3王国はこの新興国を王家とは認めてはいないのだ。


 その為、3王国は同盟を結びながらも他の2国へ密偵を送り込んでいた。


 自分たちの利権を守るためだ。


 常に動きを探り、時には陰謀を企て、国を混乱させ国力を削いでいた。けっして、3王国よりも力を付けさせてはならなかったのだ。


———


 ライスは手をあげる。


 「はい、ライス君、どうぞ」


 「その密偵がマイルなんですね」


 「そのとおり。しかしおそらくマイルは偽名だよ」


 「ふ~ん。でも6国のうち滅びた国って何で滅びたのかな? リジ、知ってる?」


 「ううん。知らない。学校でも教えてくれなかったよ。でも領主国ヴァンがその滅びた国の双児国だってことは聞いた事あるけどね」


 ロスは滅びた国について良く知っていたが、もうしばらく黙っておこうと思った。


 それはロスの秘密にも関わることだったから..

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