第23話 チグルの服屋でお買い物

【前話までのあらすじ】


北の山の捜索や拉致されたワイズの手がかりを掴むためにペドゥル国に移民として潜入したロス、ライス、リジだった。ロスはまず入国管理出張所にて身分階級証明書を発行してもらう事にする。この国では身分によって自由度と生活の質が決定される。そしてロスたちは上位魔獣を倒し七色魔石を手に入れられる存在として『凡貴族』の身分を手に入れた。

◇◇◇


【本編】


 大通り沿いにはたくさんのお店が並んでいた。


 ライスはまるで上京したての若者のように、街の様子をキョロキョロと余すことなく観察していた。


 「うわ~、ヴァン国と違って、なんかペドゥル国の店って凄く華やかだね。 あっ! あそこ! あそこに服屋さんがあるよ」


 走り出そうとするライスをロスは襟首をつかんで止めた。


 「ぐへっ。ちょっとロスさん服が伸びちゃうじゃん」


 「ライス、残念ながら、あそこの店には俺たちは入れないんだ」


 「へ? なんで? なんでなの?」


 「あそこは、この国の華貴族専用店だ。というかここ凱旋通りは華貴族のお店しかない。俺たちが利用できるのは、もっと西の親善通り沿いにある店だ」


リジが横で頷いている。


 ペドゥル国の街は、凱旋大通り、親善大通り、削壁通りの3つが縦に並んでいて、東から凱旋大通り沿いは華貴族、親善大通り沿いは凡貴族、林を挟み削壁通りから西は平民・貧民の居住域となっている。


 ロスとリジが路地を入り西へ進もうとすると、ライスが声をあげた。


 「あっ、待って、ロスさん。なんかあの店、私たちも使えるみたいだよ?」


 ライスはレッテの地図の特典冊子を指さした。


 ⑧チグルの服・・・1回のみ、身分に関係なく利用することが出来る。巻末に『特別券』あり


 「「おおー」」ロスとリジが同時に声をあげた。



 —カララン と軽快なベルの音がすると、店主が素早くでてきた。


 「いらっしゃいませぇ。え~と、お客様は初めてですよ..ね。身分証はお持ちですか?」


 ロスが身分証を見せると店主の態度が急に変わる。


 「けっ、『凡』か。ここは冷やかし厳禁だ。出ていきな」


 すかさずライスが特典の「特別券」をだすと、またもや態度が急変。


 「カハッ! いやだなぁ。お客様、その券を持っているなら最初に見せてくださいよ」


 「なんか、態度変わったね、リジ」「うん。すごく変わったね、ライス」


 ライスとリジが店主の態度の変わりようにジト目となっている。

 

 「お人が悪いですよ、お客様。あの.. 報告とか.. 無しですよ」


 「報告?」


 ロスがライスの持っている「特別券」の裏を見ると、『もしも店主の接客に問題がある時はご一報を』と書いてある。


 「ほぉ.. 」


 「 ..えへ....」


 店主が愛想笑いを一生懸命している。このことからレッテの店に一報されるのは、よっぽど都合が悪いと思われる。


 「店主よ。私は、私のメイドに最高のメイド服を着せたいのだよ。だが、亭主として妻ライスにも服を買ってあげたい。 ..あいにく予算がどうして.. ああ、愚痴って申し訳ない、金はなくても口が余計な事を口走ってしまう。この口だけは止められない」


 すると店主は持っている扇子で頭をパシっとたたいた。


 「いや、そりゃメイドの服を買っていただけたら、もう一着つけちゃいますよ。そこにある服、どれでも持って行ってちょーだい!」


 「おおっ、店主。この店は最高だね」


 ロスが親指を立てて「いいね」すると、ライスとリジも続いて親指を立てた。


 結局、リジのメイド服はブリムのリボンが青色に変わっただけで、他のデザインはさほど変わることはなかった。


 ただ、着心地だけはだいぶ良くなったようだ。特に体の可動域の伸縮性が優れていた。リジいわく、今まで自分が着ていたどの服よりも動き安いとご満悦だ。


 一方、ライスは店にお気に入りの服がなかった。どれも社交場で着るような派手な服ばかりだ。ライスが欲しいのはあくまでも魔法使いの服なのだ。


 「あ、あのライス様、ご要望であれば仕立てさせてもらいますよ」


 「えっ? 本当に?」


 「では、どのような服を望まれるのでしょう」


 「う~んとね。基本的には魔法使いのドレスね。でもどこに行っても着られるようなのがいいな。普段着っぽいの。それでいて動き安い。これは譲れない。それで可愛いのがいい」


 ライスの希望は漠然としていた。しかし、店主はライスの採寸をしながらも、しっかりとイメージを作っているようであった。


 服は2日もあればできると言っていた。


 ここでの支払いは魔石3つとした。ペドゥル国の貨幣の相場があまりよくなかったからだ。手持ちの貨幣交換は最小限にしておきたかった。


 ロスはレッテの地図から『訳あり物件』を多数扱う不動産屋を見つけ出した。そして、庭付き家具付き一戸建てを『特典25%割引券』にて格安購入した。立地条件は削壁通り沿いで治安はあまりよろしくない。前の家主は強盗に合い帰らぬ人となったらしい。夜な夜な亡霊のうめき声がするという情報は、ライスとリジには黙っていた。


 家の掃除は後回しにし、ロスたちは各部屋で眠った。


 結局、旅の疲れで自分たちが死んだように眠ったため、亡霊のうめき声があったかは分からなかった。

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