第22話 身分審査にマコノヒー弁護士、登場

【前話までのあらすじ】


ペドゥル国に入る前、リジの身バレを防ぐために作戦を打ち立てた。『移住作戦』だ。ロスとライスは夫婦、式紙しきがみメイドの服を借りてリジはメイドとなった。例え、リジの顔を知っているものがいようと、ヴァン国の跡継ぎがメイド服を着ているなどと思う者はいない。3人はペドゥル国の大門を通過した。

◇◇◇


【本編】


 着ているメイド服が、突然消えてしまうかもしれない。しかし、今リジが服屋に飛び込んだとしても服を買う事は出来ないのだ。


 ここペドゥル国では入国をした後に入国管理出張所にて、それぞれの身分証明書を発行してもらわねばならないのだ。


 身分階級は上から『華貴族』『凡貴族』『平民』『—』、『来者』『華来者』となっている。


 「なら、ロスさん、早く出張所へ行こう! 早く、早く!」


 リジが足踏みしながら言う。


 「まぁ、そうなんだが、まずはこの国の地図を手に入れたいところだな、ああ、あそこに本屋があるな。そこで買う事にしよう」


 そんなロスの悠長な言葉に「きーっ」となっているリジの肩をポンポンと叩いてなだめるライスだった。


 本屋で地図を購入しようと貨幣をだすと..


 「お客さん、悪いけどこのお金じゃだめだ。売れないね」


 「あ、そっか。そういや、まだ貨幣交換していなかったな」


 そんなやりとりを前に、ついにリジがキレかかる。


 「もうっ!! おじさん、これ! これでいいでしょ!」


 バンと勘定台の上にリジが置いたものは、特権階級が使う世界に通じる白金貨幣だった。


 「ひゃ!」っとびっくりする店主だったが、すぐにロスがバっと引っ込める。


 「おじさん、こっち、こっち。これでどうだい」


 それは今まで倒した魔物が落とした単色魔石2つだった。この本屋の商品全てを購入できる価値があった。


 「ひゃ、ひゃ、これはもらいすぎだよ、旦那」


 「いや、いいんだ。そのかわり、今見た事は内緒にしてくれ。そうすれば、今後の買い物も利用させてもらうよ。この魔石でね」


 「またのご来店をお待ちしております!!」


 満面の笑みの店主は店先まで出て頭を下げつづけていた。


 焦っていたとはいえ迂闊にも白金貨幣を出してしまったリジをロスは叱りつけた。


 上流階級しか持てない白金貨幣が出回ったとあれば役人が貨幣の出元調査を行うからだ。国としてはそんな上流階級の人は丁重に出迎えなければならない。そして、下手をすれば、店主が不正入手をした嫌疑で厳しい取り調べにあってしまうのだ。


 「リジ君、わかったかい? 行動する前によく考えるんだ」


 「だって.. はい。気を付けます」


 魔石2つで事なきとなったが、このことが結果的にロスたちには魔石の価値以上のモノとなって戻ってくることになる。


 『レッテの本屋』の看板の横にもうひとつ小さく書かれた文字。それは「調査結果満足の声多数!マイル興信所」と書かれていた。


 地図は手製で詳しく見やすい。そして、店主がこっそり渡してくれた特典。そこには地図にふられた番号順に「~店の店主は女に甘い(値段交渉可)」「~料理店の裏メニュー、パシ豚丼は安く上手い」など、便利な情報まで載せているのだ。


 地図に書かれた一番近い入管出張所は、通りを2つ越えた凱旋大通り沿いにあった。


 「ロスさん、何でわざわざ移住にしたの? 『来者』のほうが住民管理されないし、動きやすいんじゃない?」


 「ほう、さすがライスも冒険者だな。良い質問だ。この国は、何事も全て身分階級から始まる社会なんだ。『来者』だと『貧民』同様に行動が制限されてしまうんだよ。それだとワイズさんの情報を掴みにくい。なぜなら、ワイズさんの拉致にはかならず上流階級の人間が関わっているからだ」


 「なるほど。じゃ「華来者」ってなに?」


 「そいつは華貴族の賓客ということさ。つまりは特別な人たちだ。本来、リジ君はここに相当するんだ」


 ライスはリジが自慢げな顔をしているのではないかとのぞき込んだ。


 「ここの『華来者』と一緒にしないで!」


 意外にもリジは嫌悪感を抱くような顔をしていた。


 「ははは。リジ君は嫌いなんだね」


 「当たり前よ。だって、ここの華の人の多くはあまりにも貴族としての矜持がなさすぎる」


 「矜持?」


 ライスには聞きなれない言葉だった。


 「『矜持』と言うのはね。誇りって事さ。でもリジ君がいう誇りと言うのは、心の持ちようのことさ。つまり品格だ。ここのペドゥルでは『富こそが正義』『富こそが全ての価値』なんだよ。でもね、俺はそれを利用するのさ」


 ロスたちは地図の通りに歩いて行き、入管出張所に到着した。


 ・・・・・・

 ・・


 待つ事30分、ロスは、さっそく式紙で法律家を呼び寄せた。


 ボウラーハットにメガネ、白シャツにベストを着た式紙マコノヒー弁護士はロスの代りに入国手続きを終えると、別室に移り身分審査の交渉を始めた。


 「私、身分裁定人のヘイトと申します。え~、あなたは?」


 「私はロス・ルーラの代理人マコノヒーです」


 笑顔で手製の名刺を渡す。もちろん書かれている住所などは適当だ。


 「ほぉ。ロスさんはあなたのような弁護士を雇う余裕があるのですね」


 「はい。私はロス・ルーラ専属の弁護士です」


 これだけでロスの身分採点はプラスする。


 「しかし、どうもロスさんやその奥方様の服装は弁護士を雇うほど裕福には見えませんが.. 奥様など特に」


 「ははは。まるで冒険者のようだとでも?」


 「まさに、そのとおり。その辺で小銭を稼ぐ卑しい冒険者のようですね」


 これでライスの身分採点がマイナスになる。


 「ヘイトさん、あなたの言う通り奥様は実は冒険者なのです」


 「入国の時に嘘ついていましたね。ただ動き安いからあのような服装をしていると」


 さらにライスの身分採点がマイナスになる。


 「そこは、あまり肝心なことではないんですよ。まぁ、ヘイトさん、これを御覧ください」


 2人を隔てる大きな机。マコノヒー弁護士が転がした魔石は、ヘイトの顔を七色に照らした。


 「こ、これは『七色の魔石』!」


 ヘイトは魔石を手に取ると、光をあてながら観察し始めた。


 「ご存じのとおり、それは上位魔獣が倒されると現れる七色の魔石です。これを手に入れたのは誰だと思いますか?」


 「まさか、奥方様ですか?」


 「そのとおり!」


 今、ライスの身分採点が爆上がり中!


 「ヘイトさん、奥方であるライス・ルーラは今も現役。倒すのは上位魔獣。つまりこの国に『七色の魔石』をもたらす人物ですよ」


 「わ、わかりました。では『貴族』として承認します。もしも『七色の魔石』を今後手に入れることが出来ましたら、申請してください」


 「いやぁ、ありがたい。ではその『七色の魔石』をお返しください」


 マコノヒー弁護士は『七色の魔石』をヘイトの手の平から取ると同時に2つの単色魔石を乗せた。


 ヘイトはすぐにポケットに手を突っ込んだ。


 「まぁ、そういうことですので、今後

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